白内障は、目の中のレンズの役割を果たす「水晶体」が白く濁ってしまう病気です。加齢とともに誰にでも起こりうる目の病気として知られていますが、その原因や症状、そして最新の治療法について、正しく理解している方は少ないかもしれません。この記事では、専門医が白内障について、そのメカニズムから具体的な症状、さらには進行した場合の治療の選択肢まで、わかりやすく丁寧に解説します。
「最近、新聞の字が読みにくくなった」「夜間の車のライトが以前よりまぶしく感じる」といった目の変化は、白内障のサインかもしれません。不安を感じている方も、この記事を通じて白内障への理解を深め、ご自身の目の健康を守るための一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

はじめに:白内障は誰にでも起こりうる目の病気です

白内障は、年齢を重ねるごとに多くの人が経験する、ごく一般的な目の病気です。特定の病気にかかっている方や、目に強い衝撃を受けた経験がある方を除けば、基本的には加齢に伴って自然に進行していくものです。そのため、「自分だけがなる特別な病気ではないか」と心配する必要はありません。
しかし、白内障を放置すると日常生活に大きな支障をきたす可能性があるため、早期に自身の症状に気づき、適切な知識を持つことが大切です。この記事では、白内障がなぜ起こるのかという原因から、どのような症状が現れるのか、そして現在どのような治療法があるのかまでを、専門医の視点からわかりやすく解説していきます。目の健康について不安を抱えている方が、安心して日々の生活を送れるよう、この記事がお役に立てば幸いです。
白内障とは?目の中で何が起きているのか
白内障とは、目の中にある「水晶体(すいしょうたい)」が白く濁ってしまう病気です。この水晶体は、カメラのレンズに例えると分かりやすいかもしれません。光を取り入れて焦点を合わせる役割を担っており、透明でしなやかな組織です。しかし、白内障になるとこの透明なレンズが何らかの原因で白く濁り、光が網膜まで届きにくくなったり、乱反射したりするため、視力低下や見え方の異常を引き起こします。
水晶体が濁ることで、外から入ってくる光がスムーズに目の奥に届かなくなり、物がかすんで見えたり、ぼやけて見えたりするようになります。これは、カメラのレンズが曇ってしまうと、どんなに高性能なカメラでも鮮明な写真を撮れないのと同じ原理です。白内障は単なる視力低下ではなく、水晶体という特定の組織に変化が起こることで生じる目の病気なのです。
40歳代から発症し始め、80歳以上になるとほとんどの方が何らかの白内障の状態にあるとされるほど、非常に身近な目の病気です。
正常な目と白内障の目の見え方の違い
白内障になると、視界がどのように変化するのか、具体的な見え方の特徴を知ることは、ご自身の症状を理解する上で非常に役立ちます。正常な目の場合は、光が水晶体を通り抜けて網膜に到達し、鮮明な像を結びます。しかし、白内障で水晶体が濁ると、光が遮られたり、乱反射したりするため、さまざまな見え方の異常が生じます。
代表的な症状の一つは、「全体的にかすんで見える」ことです。まるで「すりガラスを通して景色を見ているよう」と感じる方が多いです。色がくすんで見えたり、薄暗い場所では特に物が見えづらくなったりすることもあります。また、「光がまぶしく感じる(羞明:しゅうめい)」症状も特徴的です。対向車のヘッドライトや日中の太陽光が以前よりギラギラとまぶしく感じ、夜間の運転や外出が辛くなることもあります。
さらに、水晶体の濁り方によっては光の屈折が不均一になり、「物が二重、三重に見える(単眼複視:たんがんふくし)」という症状が現れることもあります。これは片目で見たときに起こる現象で、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても改善しないことが多いのが特徴です。これらの見え方の変化が日常生活に影響を及ぼし始めたら、白内障が進行しているサインかもしれません。
水晶体が濁る仕組み
水晶体は、主に「クリスタリン」というタンパク質と水で構成されています。このクリスタリンというタンパク質は、年齢を重ねるごとに少しずつ性質が変化していきます。紫外線や活性酸素、あるいは喫煙や糖尿病といった生活習慣の影響を受けることで、タンパク質が変性し、本来透明であるはずの水晶体が白く濁ってしまうのです。
このタンパク質の変性は不可逆的な変化であり、一度濁ってしまった水晶体が自然に透明に戻ることはありません。そのため、残念ながら点眼薬で白内障を「治す」ことはできません。点眼薬はあくまで白内障の進行を「遅らせる」ためのものであり、根本的に透明な水晶体を取り戻すには、濁った水晶体を人工のレンズに置き換える手術が必要になります。
白内障の主な症状|簡単セルフチェック
普段の生活で「なんだか見えにくいな」と感じることはありませんか?その「ちょっとした見えにくさ」が、もしかしたら白内障のサインかもしれません。白内障は、単なる視力低下だけでなく、見え方に多様な変化をもたらす目の病気です。このセクションでは、白内障によって引き起こされる具体的な症状について、ご自身で簡単にチェックできる方法も交えながら詳しくご紹介します。
こんな症状はありませんか?白内障の初期症状
白内障は、目のレンズである水晶体が濁ることで、さまざまな症状を引き起こします。初期の段階では自覚しにくいこともありますが、進行すると日常生活に影響を及ぼすことがあります。
具体的な初期症状としては、次のようなものが挙げられます。
- 目のかすみ:視界全体が霧がかかったようにぼんやりと見えたり、すりガラス越しに物を見ているように感じたりします。これは水晶体の濁りによって光が十分に網膜に届かなくなるためです。
- 視力の低下:眼鏡やコンタクトレンズを新しくしても、どうも度が合わないと感じることがあります。特に遠くの物が見えにくくなることが多いです。
- 羞明(しゅうめい):太陽光や夜間の車のヘッドライト、街灯などが異常にまぶしく感じられることがあります。これは、水晶体の濁りが光を散乱させるために起こります。
- 複視:片方の目で物を見たときに、二重や三重に見えることがあります。水晶体の濁りが不均一であるために、光の屈折が乱れることで生じます。
- 一時的に近くが見やすくなる:核白内障の初期にまれに見られる現象です。水晶体の中心部分が硬化して屈折率が変化することで、一時的に近視が進み、老眼が改善したように感じることがありますが、これは白内障が進行しているサインです。
これらの症状は、水晶体の濁り方や濁る場所によって現れ方が異なります。
白内障セルフチェックリスト
日常生活の中で、以下のような見え方の変化に気づいたら、白内障の可能性があります。気になる項目が複数ある場合は、一度眼科を受診して相談してみましょう。
- 最近、全体的に目がかすむことが多くなったと感じますか?
- 以前よりも、太陽の光や蛍光灯がまぶしく感じることはありませんか?
- 夜間の車の運転中、対向車のヘッドライトが非常にまぶしく、見えにくいと感じますか?
- 物の輪郭がぼやけて見えたり、物が二重や三重に見えたりすることがありますか?
- 眼鏡やコンタクトレンズの度数を調整しても、すっきり見えないと感じますか?
- 暗い場所よりも、明るい場所の方が見えにくいと感じることがありますか?
- 読書や裁縫など、細かい作業が以前よりもしづらくなりましたか?
- テレビの画面やパソコンの文字が、以前より読み取りにくくなったと感じますか?
- 色合いが薄く感じられたり、黄色っぽく見えたりすることがありますか?
症状が進行するとどうなる?
白内障の初期症状に気づかずに放置してしまうと、徐々に症状は進行し、日常生活に大きな支障をきたすようになります。例えば、視力が著しく低下するため、新聞や本の文字が読めなくなったり、料理や家事が困難になったりします。また、車の運転が非常に危険になり、外出自体を控えるようになるなど、行動範囲が狭まってしまうことも少なくありません。
最終的には、視力がほとんど失われ、日常生活を他者に依存せざるを得ない状態になることもあります。さらに、白内障が過度に進行し「成熟白内障」という状態になると、水晶体が非常に硬くなり、手術が難しくなるリスクが高まります。手術時間が長くなったり、合併症を引き起こす可能性が高まったりすることもあります。また、進行した白内障が原因で、緑内障など他の深刻な目の病気を併発することもあります。このようなリスクを避けるためにも、見えにくさを感じたら、早めに眼科を受診し、適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。

白内障の主な原因は「加齢」
白内障は、目の中の水晶体が濁ってしまう病気ですが、その最も大きな原因は「加齢」です。年齢を重ねるにつれて誰にでも起こる可能性があり、「加齢性白内障」と呼ばれます。これは、目の老化現象の一つと考えることができますので、過度に心配する必要はありません。この後、加齢性白内障について年代別の発症率など具体的なデータも交えて詳しくご説明し、さらに加齢以外の原因で白内障になるケースについてもご紹介します。
加齢性白内障とは?年齢別の発症率
加齢性白内障は、その名の通り加齢によって水晶体が濁る病気です。実は、多くの方が年齢とともに白内障を発症しています。厚生労働省などの調査によると、50歳代で約半数、60歳代では70%から80%の方に白内障が認められ、80歳以上になると、ほとんどすべての方が何らかの白内障の状態にあると言われています。このように、加齢性白内障は誰もが経験しうる、ごく一般的な目の老化現象なのです。
水晶体は主に「クリスタリン」というタンパク質でできており、若いうちは透明性を保っています。しかし、長年の間に紫外線や活性酸素などの影響を受け、このタンパク質が少しずつ変性し、白く濁っていきます。これが加齢性白内障のメカニズムです。濁りが進行すると、光がうまく網膜に届かなくなり、視力の低下につながります。
加齢以外の原因
白内障の主な原因は加齢ですが、それ以外にもさまざまな要因で白内障が発症することがあります。中には、年齢が若い方でも発症する種類の白内障もあります。この後のセクションでは、生まれつきの白内障である「先天性白内障」、糖尿病やアトピー性皮膚炎などの「全身疾患」が原因となる白内障、そして目の「外傷(ケガ)」や特定の「薬剤の副作用」によって引き起こされる白内障について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
先天性白内障
「先天性白内障」とは、生まれつき水晶体に濁りがある状態を指します。原因は遺伝によるものや、妊娠中にお母さんが風疹などの感染症にかかったことなどが挙げられます。子どもの視力は生まれてから発達していくため、先天性白内障があると正常な視力の発達が妨げられてしまう可能性があります。そのため、早期に発見し、必要に応じて早期に治療(手術)を行うことが、お子様の視機能を守る上で非常に重要となります。
糖尿病やアトピーなどの全身疾患
全身の病気が原因で白内障が引き起こされることもあります。これを「併発白内障」と呼び、代表的なものとして「糖尿病」と「アトピー性皮膚炎」が挙げられます。糖尿病では、高血糖の状態が長く続くことで水晶体の代謝に異常が起こり、濁りやすくなります。アトピー性皮膚炎の場合、顔を強くこするなどの刺激や、治療に使われるステロイド薬の長期使用が白内障の原因となることがあります。これらの病気が原因の白内障は、比較的若い年齢で発症することも特徴です。
目の怪我や薬剤の副作用
外部からの要因によって白内障になるケースもあります。例えば、目を強くぶつけたり、鋭利なもので目を傷つけたりといった「外傷(ケガ)」によって水晶体が直接ダメージを受け、濁ってしまうことがあります。これは「外傷性白内障」と呼ばれます。また、特定の病気の治療のために使われる「薬剤の副作用」として白内障が発症することもあります。特に、アレルギーや炎症を抑えるために用いられるステロイド薬を長期間、高用量で使用した場合に、副作用として白内障のリスクが高まることが知られています。
白内障の診断と検査方法
見え方に異常を感じて眼科を受診した際、どのようなプロセスで白内障と診断されるのか、不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。白内障の診断は、問診といくつかの簡単な検査によって行われます。これらの検査は痛みを感じることはほとんどなく、患者さんが安心して受けられるものばかりです。このセクションでは、眼科で行われる主な検査内容について詳しくご紹介し、早期発見・早期治療の第一歩となる診断プロセスをご説明します。
眼科で行う主な検査
眼科では、白内障の診断のためにいくつかの重要な検査を行います。これらの検査は、水晶体の濁りの有無や程度、そして視機能への影響を正確に把握するために不可欠です。いずれの検査も痛みはほとんどなく、短時間で終了します。
まず行われるのが「視力検査」です。これは、眼鏡やコンタクトレンズで矯正した状態を含め、どの程度見えているかを確認する基本的な検査で、白内障による視力低下の度合いを評価します。次に、白内障の診断において最も重要な検査である「細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査」を行います。これは、医師が特殊な顕微鏡を使って目を拡大し、水晶体の濁りの有無、濁りの場所、濁りの程度や種類を直接観察するものです。この検査で白内障であるかどうか、またその進行度を判断します。さらに「眼圧検査」も行います。これは、目の内部の圧力を測る検査で、白内障と似たような症状を引き起こす可能性のある緑内障など、他の目の病気の合併がないかを確認するために重要です。
どのタイミングで眼科を受診すべき?
「なんだか見えにくいけれど、まだ大丈夫かな」と、眼科受診をためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、白内障は早期に発見し、適切なタイミングで治療を検討することが、生活の質の維持において非常に重要です。先のセルフチェックリストで当てはまる項目が複数あった場合や、「目がかすむ」「光がまぶしい」といった見えにくさが日常生活に不便を感じさせ始めたら、それが受診のサインと捉えてください。
例えば、「車の運転中に標識やセンターラインが見えにくくなった」「夜間の対向車のヘッドライトが以前よりもギラギラしてまぶしく感じる」「趣味の読書や裁縫がしづらくなった」「パソコン作業で目が疲れやすくなった」など、これまでのようにはっきり見えないことで、少しでも不便さや不安を感じ始めたら、眼科を受診する良いタイミングです。特に、運転免許の更新が心配になってきた、といった具体的な支障を感じる場合は、積極的に受診を検討しましょう。白内障の治療は、本人が生活の中で「不便」を感じたときが最適な時期とされています。自己判断で放置せず、まずは専門医に相談することをおすすめします。

白内障の治療法|点眼薬と手術

白内障の治療法には、大きく分けて「進行を遅らせる点眼治療」と「根本的に治す手術治療」の2種類があります。白内障は一度濁ってしまった水晶体を薬で透明に戻すことはできないため、治療の目的や段階に応じて適切な方法が選択されます。初期段階では点眼薬で症状の進行を抑えることが中心となり、視力低下が進み、日常生活に支障をきたし始めたら手術が検討されるのが一般的です。ここでは、それぞれの治療法について詳しく見ていきましょう。
初期段階の治療:点眼薬で進行を遅らせる
白内障の初期段階では、点眼薬を用いて病気の進行を遅らせる治療が行われます。現在使用されている主な点眼薬は、水晶体のタンパク質の変性を抑えることを目的としたピレノキシン製剤や、眼の代謝改善を促すグルタチオン製剤などがあります。これらの点眼薬は、白内障の進行を穏やかにする効果が期待されています。
しかし、重要な点として、点眼薬は「濁ってしまった水晶体を透明に戻す」効果はありません。あくまでも、これ以上白内障が悪化しないように、その進行を「遅らせる」ための治療であることをご理解ください。そのため、すでに低下した視力を回復させることはできません。点眼治療は、手術を急がない場合や、まだ症状が軽度で日常生活に大きな影響がない場合に選択されることが多いです。過度な期待をせず、医師と相談しながら治療を進めることが大切です。
根本的な治療:手術で視力を取り戻す
白内障を根本的に治し、視力を回復させる唯一の方法は「手術」です。この手術では、濁ってしまった自分の水晶体を取り除き、その代わりに透明な人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入します。これにより、光が網膜にきちんと届くようになり、視力の改善が期待できます。
現在の白内障手術の主流は「超音波水晶体乳化吸引術」と呼ばれる方法です。この手術は、非常に小さな切開創(2~3mm程度)から、超音波の力で濁った水晶体を砕き、吸引して取り除きます。その後、折りたたまれた眼内レンズを挿入し、眼の中で広げて固定します。技術の進歩により、この手術は非常に安全性が高く、短時間で終わる低侵襲な治療として確立されています。
白内障手術を受けるタイミングとは?
白内障手術を受ける最適なタイミングは、医学的な視力基準だけで一概に決められるものではありません。最も大切なのは「ご自身が、白内障による見えにくさで日常生活に不便を感じているかどうか」です。例えば、車の運転に不安を感じるようになった、新聞や本の文字が読みにくくなった、趣味の裁縫や料理が楽しめなくなったなど、ご自身の生活の質(QOL)が低下していると感じる時が、手術を検討する良いタイミングと言えるでしょう。
視力が0.7以下になったら手術、といった画一的な基準ではなく、患者様お一人おひとりのライフスタイルや仕事の内容、趣味などを考慮し、医師と十分に相談して手術の時期を決めることが重要です。見え方の変化によって日常生活が制限され、不便を感じ始めたら、遠慮なく専門医に相談してみてください。
日帰りも可能!白内障手術の流れと内容
白内障手術は、多くの眼科施設で日帰り手術として行われています。手術自体にかかる時間は非常に短く、通常は片眼あたり10分から20分程度で終了します。手術当日は、まず点眼薬で麻酔を行いますので、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。その後、角膜にごく小さな切開を加え、その切開創から超音波の器械を挿入し、濁った水晶体を細かく砕いて吸引します。水晶体が全て取り除かれた後、折りたたんだ人工の眼内レンズを挿入し、眼の中で広げて固定します。
術後は、眼の状態を確認してからご帰宅いただけます。日帰り手術が可能になったのは、手術技術の進歩と、術後の管理体制が確立されたためです。痛みへの配慮もされており、安全性が非常に高い手術ですので、安心して臨んでいただけます。
手術にかかる費用と保険適用について
白内障手術は、日本の健康保険が適用される治療です。そのため、手術費用はご加入の健康保険の種類や自己負担割合(1割、2割、3割)によって異なります。一般的には、片眼あたりの手術費用は、3割負担の方で約5万円前後、1割負担の方で約1万5千円前後が目安となります。
さらに、高額療養費制度を利用すれば、1ヶ月あたりの医療費の自己負担額には上限が設けられており、それを超える分は払い戻されますので、経済的な負担を軽減することができます。ただし、後述する多焦点眼内レンズなど、一部の特殊な眼内レンズを選択した場合は、レンズの費用が選定療養や自由診療となり、保険適用外の追加費用が発生する場合があります。費用については、事前に眼科で詳しく確認し、ご自身の負担額を把握しておくことが大切です。
手術後の生活と注意点
白内障手術後の回復をスムーズにし、合併症を防ぐためには、医師からの指示と注意点を守ることが非常に重要です。術後には、眼を保護するための保護メガネや眼帯を着用し、処方された点眼薬を忘れずに、決められた通りに使うようにしてください。これは感染症の予防や炎症を抑えるために不可欠です。
日常生活では、洗顔や洗髪、入浴の時期に制限がありますので、医師の指示に従ってください。また、術後は絶対に目をこすったり、強く押さえたりしないでください。飲酒や激しい運動は、しばらくの間控える必要があります。術後数ヶ月は、定期的な検診を受けて眼の状態を確認し、良好な視力回復に向けて医師と協力していくことが大切です。
手術で重要!眼内レンズの種類と選び方
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入することで視力を回復させる治療法です。この眼内レンズの選択は、手術後の見え方や日常生活の質を大きく左右する非常に重要な要素となります。眼内レンズは大きく分けて、ピントが1つの距離にしか合わない「単焦点眼内レンズ」と、複数の距離にピントが合う「多焦点眼内レンズ」の2種類があります。それぞれのレンズには異なる特性があり、患者様のライフスタイルや求める見え方によって最適なレンズは異なります。このセクションでは、それぞれのレンズの基本的な特徴と、ご自身に合ったレンズを選ぶためのポイントについて詳しく解説していきます。
単焦点眼内レンズ:1点にピントを合わせる
単焦点眼内レンズは、あらかじめ設定した特定の距離(遠方、中間、近方の中から一つ)にのみピントが合うように設計されたレンズです。このレンズを選択した場合、ピントを合わせた距離はクリアに見えますが、それ以外の距離を見る際には眼鏡が必要になります。
単焦点眼内レンズのメリットは、主に以下の点が挙げられます。まず、健康保険が適用されるため、費用を抑えることができます。次に、コントラスト感度が高く、特に夜間など光が少ない状況でも鮮明で質の高い見え方が期待できるため、夜間の運転が多い方などには適しているでしょう。一方、デメリットとしては、ピントを合わせた距離以外はぼやけるため、遠方にピントを合わせた場合は老眼鏡が、近方にピントを合わせた場合は遠くを見るための眼鏡が必要になる点が挙げられます。眼鏡の使用に抵抗がない方や、費用を抑えたい方、また夜間の見え方を重視したい方におすすめのレンズと言えます。
多焦点眼内レンズ:複数の距離にピントが合う
多焦点眼内レンズは、遠方と近方(または中間距離も含む)の両方に同時にピントが合うように設計された画期的なレンズです。このレンズの最大のメリットは、眼鏡への依存度を大幅に減らし、「眼鏡なしの生活」を目指せる点にあります。日常生活で遠くの景色から手元の文字まで、多くの場面で眼鏡なしで快適に過ごしたいと考える方にとって、非常に魅力的な選択肢です。
しかし、多焦点眼内レンズにはデメリットもあります。まず、健康保険が適用されず、選定療養や自由診療となるため、単焦点レンズと比較して費用が高額になります。また、光がにじんで見える「ハロー・グレア現象」が起こりやすい特性があり、夜間の運転時に信号や対向車のライトがまぶしく感じる場合があります。さらに、単焦点レンズに比べてコントラスト感度がやや劣る可能性があることも理解しておく必要があります。仕事や趣味で眼鏡をかけたくない方、アクティブな生活を送りたい方、眼鏡を頻繁にかける煩わしさから解放されたい方に向いているレンズと言えるでしょう。
あなたのライフスタイルに合ったレンズを選ぼう
眼内レンズを選ぶ際に最も重要なことは、「手術後にどのような見え方を望み、どのような生活を送りたいか」という、ご自身のライフスタイルを明確にすることです。車の運転を頻繁にするのか、パソコン作業が多いのか、読書や裁縫が趣味なのか、それともスポーツや旅行などアクティブな活動を楽しみたいのか、といった具体的な生活シーンを思い描き、どの距離の見え方を最も重視したいかを考えてみてください。
例えば、遠方視力が特に重要であれば単焦点レンズで遠方にピントを合わせ、手元は老眼鏡で対応するという選択肢があります。一方、眼鏡をかけたくないという希望が強いのであれば、多焦点眼内レンズが適しているかもしれません。最終的には、ご自身の希望や現在の目の状態、仕事や趣味の内容などを、眼科専門医にしっかりと伝え、カウンセリングを通じて最適なレンズを共同で決定していくプロセスが不可欠です。納得のいく選択をするためにも、疑問点や不安な点は遠慮なく医師に相談し、十分な情報を得た上で判断してください。

日常生活でできる白内障の予防法

白内障は加齢とともに誰にでも起こりうる目の病気ですが、その発症や進行を完全に止めることは難しいとされています。しかし、日常生活の中でいくつかの習慣を見直すことで、進行を遅らせたり、発症リスクを低減したりすることは可能です。このセクションでは、今日からでも手軽に始められる白内障の予防策を、「紫外線対策」「食生活」「生活習慣」の3つの視点からご紹介します。ご自身の目の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。
紫外線対策を徹底する
紫外線は、白内障の主要な危険因子の一つとして知られています。長期間にわたって目に紫外線を浴び続けると、水晶体を構成するタンパク質が変性し、濁りの原因となることが科学的にも示されています。特に、屋外での活動が多い方や、紫外線が強い地域にお住まいの方は注意が必要です。
予防策としては、UVカット機能のあるサングラスや帽子の着用が非常に有効です。サングラスを選ぶ際には、レンズの色の濃さではなく、「紫外線透過率」や「UVカット率」といった表示を確認することが重要です。色の濃いサングラスでもUVカット効果が低いものや、逆に透明に近いレンズでも高いUVカット効果を持つ製品もあります。また、帽子や日傘を併用することで、目に入る紫外線の量をさらに減らすことができます。
抗酸化作用のある食品を摂る
白内障の原因の一つには、体内の酸化ストレスが関わっていると考えられています。そのため、酸化ストレスから体を守る「抗酸化作用」を持つ栄養素を積極的に食事に取り入れることが、白内障の予防に繋がると期待されています。
具体的には、ビタミンC、ビタミンE、そしてルテインなどの栄養素が抗酸化作用を持つことで知られています。ビタミンCは果物(柑橘類、イチゴなど)や野菜(ピーマン、ブロッコリーなど)に、ビタミンEはナッツ類(アーモンド、くるみなど)や植物油に豊富に含まれています。また、目の健康に良いとされるルテインは、ほうれん草やケールなどの緑黄色野菜に多く含まれています。これらの食品をバランス良く食事に取り入れることで、目の健康維持だけでなく、全身の健康にも良い影響を与えることができます。
禁煙と生活習慣の見直し
喫煙は、白内障のリスクを大幅に高める要因の一つです。タバコに含まれる有害物質が体内で活性酸素を増加させ、水晶体のタンパク質を変性させやすくすることがわかっています。また、喫煙は血流を悪化させるため、水晶体に必要な栄養素の供給が滞る可能性もあります。目の健康のためにも、禁煙は非常に重要な予防策となります。
さらに、糖尿病などの全身疾患も白内障のリスクを高めます。糖尿病の患者さんは、高血糖状態が続くことで水晶体の成分が変化しやすくなり、白内障が若いうちから発症したり、進行が早まったりすることがあります。そのため、糖尿病の方は血糖コントロールをしっかり行うことが、白内障予防においても非常に重要です。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠といった健康的な生活習慣全般が、目の健康を維持し、白内障のリスクを軽減することに繋がります。
白内障に関するよくある質問(Q&A)
白内障についてここまで詳しく解説してきましたが、やはり実際に治療を検討するとなると、さまざまな疑問や不安が浮かび上がってくるものです。このセクションでは、皆さまが抱きがちな具体的な疑問、特に白内障手術に関する痛みや再発の可能性、そして手術のリスクといった点について、専門家の視点から明確にお答えしていきます。安心して治療に臨んでいただけるよう、一つひとつの質問に丁寧にお答えします。
Q. 手術は痛いですか?入院は必要ですか?
「白内障の手術は痛いのではないか」とご心配される方は多くいらっしゃいますが、ご安心ください。現在の白内障手術は、点眼麻酔をしっかりと行うため、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。もちろん、個人差はありますが、「触られている感じ」や「押されている感じ」がすることはあっても、鋭い痛みが生じることは稀です。
また、入院の必要性についても、多くの方が誤解されています。近年、白内障手術の技術は目覚ましく進歩しており、現在ではほとんどのケースで「日帰り手術」が可能です。手術時間は片目あたりわずか10分から20分程度と短く、身体への負担も少ないため、遠方からの通院など特別な事情がない限り、入院は不要な場合がほとんどです。ただし、患者さまの全身状態や合併症の有無、あるいは患者さまご自身の希望によっては、入院を選択できる施設もありますので、医師とよく相談して決めることができます。
Q. 手術後にまた白内障になることはありますか?(後発白内障)
白内障手術によって濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入するため、一度治療した白内障が再び「再発する」ことはありません。これは、手術によって原因そのものがなくなるためです。しかし、手術から数ヶ月から数年が経過した後に、再び目のかすみや視力低下を感じる方がいらっしゃいます。これは「後発白内障」と呼ばれる現象で、白内障そのものが再発したわけではありません。
後発白内障とは、眼内レンズを支えている水晶体の後ろ側の膜(後嚢)が濁ってしまう状態を指します。これは手術の合併症の一つですが、ごく一般的なもので、過度な心配は不要です。治療は非常に簡単で、YAGレーザーという特殊なレーザー光線を使って、外来で5分程度で濁った膜に穴を開けることで、すぐに視力が回復します。痛みもほとんどなく、短時間で終わるため、安心して治療を受けていただけます。
Q. 手術の合併症やリスクはありますか?
白内障手術は、現在行われている手術の中でも非常に安全性が高く、成功率も高い手術の一つです。しかし、どんな手術にも100%安全ということはなく、ごく稀に合併症が起こる可能性はゼロではありません。主な合併症としては、術後の「感染症(眼内炎)」、「眼圧上昇」、「網膜剥離」などが挙げられます。
これらの合併症の発生頻度は極めて低いことが特徴です。例えば、最も注意が必要な眼内炎の発生頻度は、数千件に1件程度と言われています。万が一合併症が発生した場合でも、早期に適切な処置を行うことで重篤な事態に至ることは稀です。術後の医師の指示(点眼薬の使用、保護メガネの装用、安静など)をしっかりと守り、定期的な術後検診を欠かさず受けることが、これらのリスクを最小限に抑え、良好な視力回復へとつながるために非常に重要です。
まとめ:見えにくさを感じたら、まずは専門医に相談を
白内障は、加齢とともに誰にでも起こりうる目の病気です。しかし、けっして特別な病気ではありません。多くの患者様が手術によって視力を取り戻し、快適な日常生活を送っています。大切なのは、「老いだから仕方ない」と諦めずに、ご自身の目の変化に意識を向けることです。
もし、最近「物がかすんで見える」「光がまぶしい」「以前より見えにくくなった」と感じるようでしたら、それは白内障のサインかもしれません。白内障は薬で治る病気ではなく、最終的には手術が必要となりますが、日常生活に不便を感じた時が手術を検討する良いタイミングです。
見えにくさを放置すると、生活の質(QOL)が低下するだけでなく、他の目の病気の発見が遅れる可能性もあります。少しでも気になる症状があれば、自己判断せずに、まずは気軽に眼科専門医に相談することが何よりも大切です。現在の目の状態を正確に把握し、ご自身のライフスタイルに合った最適な治療法について、医師と一緒に考えていきましょう。


