「朝起きたら、目が真っ赤に充血していた」
「目やにがひどくて、目がかゆい…」
「子どもが結膜炎と診断されたけど、学校は休ませるべき?」
このような目の症状で不安に感じている時、多くの方が真っ先に心配になるのが、「この結膜炎は、家族や職場、学校の友達にうつるのだろうか?」ということではないでしょうか。
「ものもらいはうつらないけど、はやり目はうつる」といった話を聞いたことがあるかもしれません。
その知識は、実は半分正解で、半分は不十分です。
一言で「結膜炎」といっても、その原因は様々です。
そして、人にうつる非常に感染力の強いタイプと、全くうつらないタイプが存在します。
この違いを知らずに自己判断で対処してしまうと、知らず知らずのうちに周囲の人に感染を広げてしまったり、逆に、必要以上に登園や出社を控えてしまったりする可能性があります。
この記事では、「結膜炎はうつるの?」という最大の疑問に、眼科専門医の視点から明確にお答えします。
原因別の結膜炎の種類、それぞれの症状の特徴と見分け方、感染を広げないための具体的な対策、そして、なぜ眼科の受診が絶対に必要不可欠なのかまで、網羅的に詳しく解説していきます。
この記事を最後まで読めば、ご自身の、あるいはご家族の目の症状に対して、冷静に、そして正しく行動できるようになるはずです。
【結論】原因によって全く違う!「うつる結膜炎」と「うつらない結膜炎」

まず、最も重要な結論からお伝えします。結膜炎がうつるかどうかは、その原因によって決まります。
大きく分けると、以下の3つに分類されます。
非常にうつる(感染力が強い) | ウイルス性結膜炎 |
基本的にはうつらない(感染力は弱い) | 細菌性結膜炎 |
全くうつらない | アレルギー性結膜炎など |
このように、「結膜炎」という一つの病名の中にも、感染に関しては全く性質の異なるタイプが存在するのです。
そして、これらの鑑別は、症状だけでは非常に難しく、医師による診察によってはじめて可能になります。
「目が赤いから、うつる結膜炎だ」と決めつけるのは間違いですし、「かゆいだけだから、うつらないだろう」と油断するのも危険です。
正しい診断こそが、ご自身と周りの人を守るための第一歩となります。
【特に注意!】人にうつる「ウイルス性結膜炎」の種類と特徴
「うつる結膜炎」の代表格が、ウイルスへの感染によって引き起こされる「ウイルス性結膜炎」です。
感染力が非常に強く、学校や職場などで集団感染(アウトブレイク)の原因となることもあります。
法律(学校保健安全法)で「出席停止」の対象となるのも、このウイルス性結膜炎です。
主に以下の3つのタイプが知られています。
1. 流行性角結膜炎(はやり目)
【原因】
アデノウイルス(8型、19型、37型など)が原因です。感染力が極めて強く、接触感染(ウイルスが付着した手で目を触るなど)によって広がります。
【症状】
約1~2週間の潜伏期間の後、突然発症します。症状は非常に強く、大量の涙や水っぽい目やに、強い充血、ゴロゴロ感、まぶしさなどが特徴です。まぶたの裏側にブツブツとした「濾胞(ろほう)」がたくさんでき、まぶたの腫れや、耳の前にあるリンパ節の腫れ・痛みを伴うこともあります。炎症が強いと、角膜(黒目の部分)に濁りが残り、視力に影響を及ぼす「角膜混濁」という後遺症を残すこともあるため、適切な治療が不可欠です。
【治療法】
残念ながら、アデノウイルスに直接効く抗ウイルス薬はありません。そのため、治療は、炎症を抑えるためのステロイド点眼薬や、細菌による二次感染(混合感染)を防ぐための抗菌点眼薬を使用する対症療法が中心となります。ウイルスの活動が弱まるまでの約2~3週間、根気強く治療を続ける必要があります。
2. 咽頭結膜熱(プール熱)
【原因】
こちらもアデノウイルス(主に3型)が原因です。夏場にプールを介して子どもたちの間で流行することが多いため、「プール熱」と呼ばれますが、プールに入らなくても飛沫感染や接触感染でうつります。
【症状】
その名の通り、結膜炎の症状に加えて、39度前後の高熱や、喉の痛み(咽頭炎)といった全身症状を伴うのが特徴です。目の症状自体は、はやり目ほど重症化しないことが多いですが、高熱が数日間続くため、お子さんの体力消耗には注意が必要です。
【治療法】
こちらも、ウイルスに直接効く薬はないため、対症療法が中心となります。目の症状には抗炎症薬や抗菌薬の点眼を、発熱や喉の痛みには解熱鎮痛薬などを内服し、十分な水分補給と休養をとって、自然に回復するのを待ちます。
3. 急性出血性結膜炎
【原因】
エンテロウイルスやコクサッキーウイルスなどが原因です。感染力が非常に強く、感染から発症までのスピードが速いのが特徴です。
【症状】
名前の通り、白目の部分(結膜)に出血を伴うのが最大の特徴で、目が真っ赤に見えます。充血や目やに、ゴロゴロ感なども強く、発症から治癒までの期間は比較的短い(1週間程度)とされています。
【治療法】
やはり、ウイルスに直接効く薬はないため、二次感染予防のための抗菌点眼など、対症療法を行います。
【うつらない】その他の結膜炎の種類と特徴
次に、人にうつる心配のない結膜炎について解説します。
目の充血など、見た目の症状はウイルス性と似ていることもあるため、正しい知識を持つことが重要です。
1. アレルギー性結膜炎
【原因】
花粉(スギ、ヒノキなど)、ハウスダスト、ダニ、ペットの毛といったアレルギーの原因物質(アレルゲン)が、結膜に付着することで引き起こされるアレルギー反応です。体質的なものであり、感染症ではないため、人にうつることはありません。
【症状】
何よりも「強い目のかゆみ」が最大の特徴です。目をこすってしまうことで、白目がブヨブヨと腫れてしまう(結膜浮腫)こともあります。涙っぽく、サラサラとした水のような目やにが出ます。くしゃみや鼻水といった、アレルギー性鼻炎の症状を伴うことも多いです。
【治療法】
治療の基本は、アレルギー反応を抑える「抗アレルギー点眼薬」です。かゆみが非常に強い場合には、ステロイド点眼薬を短期的に使用することもあります。原因となるアレルゲンを避けるセルフケアも重要です。
2. 細菌性結膜炎
【原因】
インフルエンザ菌や肺炎球菌、黄色ブドウ球菌といった、身の回りにいる一般的な細菌が原因です。お子さんやお年寄りなど、免疫力が比較的弱い方がかかりやすい傾向があります。
【症状】
ウイルス性の水っぽい目やにとは対照的に、黄色や緑色がかった、ネバネバとした膿性の目やにが出るのが特徴です。朝起きると、目やにでまぶたが開けにくくなることもあります。
【うつるの?】
原因が細菌であるため、感染力はゼロではありませんが、ウイルス性結膜炎に比べると感染力は非常に弱いです。濃厚な接触がない限り、日常生活で周りの人にうつしてしまう心配はほとんどありません。ただし、乳幼児などでは、集団生活の中でうつる可能性も否定はできないため、手洗いはしっかり行う必要があります。
【治療法】
原因菌に効果のある「抗菌点眼薬」を使用します。適切に治療すれば、数日~1週間程度で速やかに改善します。
【実践ガイド】「うつる結膜炎」を家族や周囲に広げないための徹底対策
もし、ご自身やご家族が「うつる」可能性のあるウイルス性結膜炎と診断された場合、感染を拡大させないために、以下の対策を徹底することが社会的な責任として求められます。
家庭内での対策
- 手洗いの徹底:これが最も重要です。石鹸と流水で、指の間や手首まで丁寧に洗いましょう。アルコール手指消毒も有効です。
- タオルの共有は厳禁:顔や手を拭くタオルは、患者さん専用のものを用意し、必ず分けましょう。ペーパータオルの使用が最も安全です。
- 目を触らない・こすらない:ウイルスが付着した手で目を触ると、反対の目にうつったり、他の人に感染させたりする原因になります。
- お風呂は最後に入る:お風呂のお湯を介してうつる可能性は低いですが、念のため、患者さんは家族の中で最後に入浴するのが望ましいです。
- ドアノブやスイッチなどの消毒:患者さんがよく触れる場所は、市販の消毒用アルコールなどでこまめに拭きましょう。
学校や職場での注意点
ウイルス性結膜炎のうち、特に「流行性角結膜炎(はやり目)」と「咽頭結膜熱(プール熱)」は、学校保健安全法で「第三種の感染症」に定められています。
これは、「医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止」としなければならない、という意味です。
つまり、診断された場合は、自分の判断で登校・登園することはできません。
必ず医師の指示に従い、定められた期間は自宅で療養してください。
仕事に関しても、接客業や医療・介護職など、人と接する機会の多い方は、出勤を控えるべきです。
職場に診断書を提出し、医師から「治癒証明書(登校許可証)」が発行されるまで、休みを取得するよう相談しましょう。
自己判断は危険!なぜ眼科受診が必要なのか
ここまで読んでいただければ、「結膜炎」と一括りにはできず、その種類によって対処法が全く異なることをご理解いただけたと思います。
それでも、「市販の目薬で様子を見ようかな」と考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、それは非常に危険な行為です。眼科受診が絶対に必要な理由を、改めて強調させてください。
1. 正しい原因診断が、唯一の正しい対策に繋がるから
「うつるのか、うつらないのか」この最も重要な問いに答えを出せるのは、専門医による診断だけです。もし感染力の強いウイルス性結膜炎を、ただの疲れ目やアレルギーだと思い込んで普段通りの生活を送れば、大切なお子さんやパートナー、職場の同僚にまで感染を広げてしまう可能性があります。
2. 間違った治療は、症状を悪化させる危険があるから
例えば、アレルギー性結膜炎のつもりで市販の血管収縮剤入りの目薬を使い続けると、かえって充血が悪化することがあります。また、ウイルス性結膜炎に抗菌点眼薬は効きませんし、逆に、細菌性結膜炎にステロイド点眼薬を漫然と使用すると、菌を増殖させてしまう危険性もあります。原因に合った適切な薬剤を選択することが、早期治癒への唯一の道です。
3. 重篤な合併症や、他の病気を見逃さないため
ウイルス性結膜炎は、時に角膜に濁りを残し、視力低下の後遺症をきたすことがあります。適切な時期に抗炎症治療を開始することで、そのリスクを最小限に抑えることができます。また、「ただの充血」だと思っていたら、緑内障の発作やぶどう膜炎といった、より重篤な病気が隠れていることもあります。専門医は、そうした危険な病気の可能性も念頭に置いて診察を行っています。
4. 公的な証明書を発行できるのは、医師だけだから
お子さんが学校を休む必要がある場合や、仕事を休むために証明が必要な場合、その診断書や治癒証明書を発行できるのは医師だけです。社会的な責任を果たすためにも、医療機関の受診は不可欠です。
まとめ:目の充血や目やにに気づいたら、迷わず眼科へ
目の充血やかゆみ、目やにといった症状は、誰もが経験するありふれたものです。
しかし、その背景には、非常に感染力の強いウイルスが隠れている可能性も、アレルギー反応が起きている可能性も、あるいは別の病気が潜んでいる可能性もあります。
大切なのは、「自己判断しないこと」、そして「症状が出たら、できるだけ早く眼科を受診すること」です。
鶴見区今福鶴見の『大阪鶴見まつやま眼科』では、患者さんの症状を丁寧に診察し、原因を正確に突き止め、最適な治療法をご提案します。
そして何より、患者さんが抱える「うつるのかな?」という不安を解消し、ご自身と周りの方々を守るための、最も信頼できるパートナーです。
目に少しでも異常を感じたら、決して一人で悩まず、どうぞお気軽に当院にご相談ください。
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