長時間のパソコン作業やスマートフォンの使用が日常となった現代において、「目が乾く」「目が疲れる」といった目の不快感は、もはや当たり前のように感じられているかもしれません。
しかし、これらの症状は単なる疲れ目ではなく、「ドライアイ」という治療が必要な病気である可能性も考えられます。
ドライアイは、日常生活の質を著しく低下させるだけでなく、放置すると目の表面にダメージを与え、視力低下の危険性にもつながる疾患です。
このページでは、眼科専門医の視点から、ドライアイの基本的な知識から、今日から始められる具体的なセルフケア、そして症状が改善しない場合の専門的な治療法まで、幅広くご紹介いたします。
あなたのその症状、ドライアイかも?まずは簡単セルフチェック
長時間のパソコン作業で目が疲れる、朝起きると目がゴロゴロする、そんな経験はありませんか。多くの人が「ただの目の疲れ」や「乾燥」だと思いがちなこれらの症状は、実は「ドライアイ」という病気のサインかもしれません。このセクションでは、ご自身の目の状態がドライアイに当てはまるかどうか、簡単なセルフチェックを通じて確認していきます。具体的な症状リストや、ご自宅で手軽に試せるチェック方法をご紹介することで、ドライアイへの理解を深め、適切なケアを始めるきっかけにしていただければ幸いです。
ドライアイの主な症状リスト
ドライアイの症状は、単に目が乾くだけではありません。涙の量や質の異常によって目の表面が傷つき、さまざまな不快感を引き起こします。代表的な症状としては、目の乾きや疲れのほかにも、目の中に砂が入ったようなゴロゴロとした異物感、目の充血、光をまぶしく感じる羞明(しゅうめい)などがあります。
また、かすみ目や視力の不安定さ、目が痛む、涙がたくさん出る(反射性分泌過多)といった症状もドライアイが原因で起こることがあります。これらの症状が複数現れたり、日常生活に支障をきたすほど強く感じたりする場合は、ドライアイの可能性が高いと考えられます。
これらの症状は、目の表面の細胞が傷つき、炎症を起こすことで生じます。単なる不快感と放置せず、自身の目の状態を注意深く観察することが大切です。
10秒まばたきを我慢できる?手軽にできるドライアイチェック
ご自身で簡単にドライアイの傾向をチェックできる方法として、「10秒間まばたきを我慢する」テストがあります。これは、まばたきをせずに目を開け続けて、涙の膜がどれくらいの時間で破壊されるかを見る簡易的な検査です。
まず、目を開けたまま、意識的にまばたきをせずに10秒間数えてみてください。もし10秒経つ前に目がショボショボしたり、痛みを感じたりしてまばたきをしてしまった場合、涙の安定性が低下しているドライアイの可能性があります。このテストは、眼科で行われる涙液層破壊時間(BUT)検査を家庭で簡易的に行うものです。
ただし、このセルフチェックはあくまで目安であり、正式な診断ではありません。もし、このテストで当てはまる症状が出たり、日常生活で目の不快感が続く場合は、眼科専門医の診察を受けることをおすすめします。
そもそもドライアイとは?涙の仕組みから正しく理解する
セルフチェックを通じて、ご自身の目の状態について考え始めた方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、目の不快感や乾きを引き起こすドライアイが、医学的にどのような状態を指すのかを詳しく見ていきます。単なる乾燥という一言では片付けられないドライアイの本質を理解するために、目の表面を保護する「涙」が持つ大切な役割と、その複雑な仕組みについて解説します。
涙の「量」と「質」の低下が原因
ドライアイは、涙の量が減ってしまう「涙液分泌減少型」と、涙の質が悪くなりすぐに蒸発してしまう「涙液蒸発亢進型」の2種類に大きく分けられます。どちらのタイプも、目の表面を潤す涙の機能が低下することで、さまざまな不快な症状を引き起こします。日本では、推定2,200万人以上の方がドライアイの症状に悩まされているか、その可能性があるとされており、非常に多くの方にとって身近な病気といえるでしょう。
涙液分泌減少型は、涙腺の機能低下や、シェーグレン症候群のような自己免疫疾患などが原因で、涙の分泌量そのものが減少するタイプです。一方、涙液蒸発亢進型は、涙の表面を覆う油層が不安定になることで、涙が急速に蒸発してしまうタイプで、最近ではこちらのタイプがドライアイの多くを占めると考えられています。
目を守る涙の3層構造(油層・水層・ムチン層)
涙は単なる水ではなく、目の表面を健やかに保つために非常に精密な3つの層で構成されています。最も外側にあるのが「油層」で、これはまぶたの縁にあるマイボーム腺から分泌される油分でできています。油層は、涙が蒸発するのを防ぐ蓋のような役割を果たしており、涙を目の表面にしっかりと留めるために不可欠です。
その内側にあるのが「水層」です。これは涙腺から分泌される水分で、涙の主成分を占めます。水層は目に潤いを与え、酸素や栄養を供給するほか、目に入った異物を洗い流す役割も担っています。そして、最も目の表面に近いのが「ムチン層」です。これは角膜や結膜の細胞から分泌される粘液性の物質で、親水性が高く、目の表面と水層をしっかりと密着させることで、涙が均一に広がり、安定した状態を保つことができます。
これら油層、水層、ムチン層のいずれかのバランスが崩れると、涙の膜が不安定になり、涙が目の表面に均一に広がらなくなったり、すぐに蒸発してしまったりします。これが、目の乾きや異物感、疲れといったドライアイの症状を引き起こす「涙の質的異常」の主なメカニズムなのです。
【原因別】あなたのドライアイはどのタイプ?
ドライアイは、人によってその原因が大きく異なります。生活習慣が影響している場合もあれば、加齢や体質、さらには他の病気が背景にあることもあります。ご自身のドライアイがどのタイプに当てはまるのかを知ることで、より効果的な対策を見つけることができるでしょう。ここでは、ドライアイを引き起こすさまざまな原因について詳しく見ていきましょう。
生活習慣によるもの
現代社会において、ドライアイの多くは日々の生活習慣に深く根ざしています。特にデスクワークが中心の方や、デジタルデバイスを長時間利用する方は注意が必要です。このセクションでは、私たちの日常に潜むドライアイの具体的な原因と、そのメカニズムについて掘り下げて解説していきます。
パソコン・スマートフォンの長時間使用
パソコンやスマートフォンの長時間使用は、ドライアイの最大の原因の一つとして挙げられます。画面に集中しているとき、私たちは無意識のうちにまばたきの回数が減ってしまいます。通常、人は1分間に20~30回まばたきをしますが、デジタルデバイスの使用中はその回数が約1/4程度にまで激減すると言われています。まばたきが減ると、目の表面を覆う涙が蒸発しやすくなり、目の乾燥を引き起こします。涙が十分に供給されないと、目の表面が乾き、結果として目の疲れや異物感、ひどい場合には角膜に傷がついてしまうこともあるのです。長時間ディスプレイを見続けることは、目の負担を著しく増やし、慢性的なドライアイに繋がりやすいため、意識的な休憩やケアが非常に重要になります。
エアコンによる空気の乾燥
オフィスや自宅で日常的に使用されるエアコンは、室内の空気を乾燥させ、ドライアイの症状を悪化させる一因となります。特にエアコンの風が直接顔や目に当たると、目の表面から涙が急速に蒸発してしまい、乾燥が進みます。冬場の暖房だけでなく、夏場の冷房でも室内の湿度が低下するため、年間を通して注意が必要です。湿度管理がおろそかになると、涙の蒸発が促進され、目の乾きだけでなく、目の充血や異物感といった不快な症状を引き起こすことがあります。加湿器を使用したり、エアコンの風が直接当たらないよう工夫したりするなど、環境を整えることがドライアイ対策には欠かせません。
コンタクトレンズの装用
コンタクトレンズを使用している方は、ドライアイのリスクが高まる傾向にあります。コンタクトレンズは、目の表面にある涙を吸収しやすいため、涙の量が不足しがちになります。特にソフトコンタクトレンズは水分を多く含む性質上、レンズが乾くと目の涙を奪ってしまいます。また、レンズが目の表面に物理的に存在することで、涙の正常な循環が妨げられたり、まばたきによる涙液の交換がうまく行われなかったりすることもあります。さらに、コンタクトレンズの素材によっては、涙の油層を不安定にさせ、涙の蒸発を促進させてしまうことも指摘されています。長時間の装用や、自身に合わないレンズを使用し続けることは、ドライアイの症状を悪化させる原因となるため、適切なレンズ選びと装用時間の遵守が大切です。
加齢による涙の変化とマイボーム腺機能不全
ドライアイの主な原因の一つに、加齢に伴う涙の変化と「マイボーム腺機能不全(MGD)」があります。実はドライアイ全体の86%以上がこのMGDが関連しているとされており、非常に重要な要因です。マイボーム腺とは、まぶたの縁にある腺で、涙の一番外側の層である「油層」を分泌しています。この油層は、涙の蒸発を防ぎ、目の表面に涙を安定させる役割を担っています。
しかし、加齢や生活習慣の乱れなどにより、このマイボーム腺が詰まったり、炎症を起こしたりすることで、油分の分泌が減少したり、質が悪くなったりすることがあります。その結果、涙が不安定になり、乾燥しやすくなってしまうのです。これが涙の「質的異常」によるドライアイの主要なメカニズムです。マイボーム腺の機能低下は、単なる乾燥ではなく、目の表面のバリア機能の低下に直結するため、適切なケアが非常に重要になります。
その他の原因(病気・薬の副作用・ストレスなど)
ドライアイの原因は多岐にわたり、生活習慣や加齢以外にもさまざまな要因が影響することがあります。例えば、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患では、涙腺や唾液腺が攻撃されることで、涙の分泌量が著しく減少することが知られています。また、高血圧治療薬、精神安定剤、抗ヒスタミン薬など、一部の薬の副作用として涙の分泌が抑制され、ドライアイの症状が現れることもあります。さらに、ストレスもドライアイに大きく関わってきます。過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、涙の分泌をコントロールする副交感神経の働きを低下させてしまう可能性があるためです。これらの要因は、自身の判断だけでは特定が難しい場合が多いため、気になる症状がある場合は、専門医への相談をおすすめします。
今日から実践できる!ドライアイの予防とセルフケア
ドライアイの原因を理解することは、その対策を立てる第一歩です。しかし、原因を知るだけでなく、実際に何をするべきかを知り、行動に移すことが症状の改善には欠かせません。このセクションでは、つらい目の症状を和らげ、快適な毎日を取り戻すために、今日からすぐに実践できる具体的な予防法とセルフケアの方法を詳しくご紹介します。環境改善、直接的な目のケア、日々の食生活、そして市販薬の適切な活用法という4つのアプローチから、読者の方々の悩みに寄り添った解決策を提案していきます。
【環境改善】仕事中や自宅でできる工夫
ドライアイの予防と改善において、日々の生活環境を見直すことは非常に重要です。特に、多くの時間を過ごすオフィスやご自宅での環境を少し工夫するだけで、目の負担を大きく軽減できます。このセクションでは、今すぐにでも始められる、環境面からの具体的な改善策をご紹介します。
意識的なまばたきと1時間ごとの休憩
パソコンやスマートフォンの画面に集中していると、まばたきの回数が無意識のうちに減ってしまうことはよく知られています。通常は1分間に20回程度のまばたきをしますが、画面を見ているときは4分の1程度まで減少すると言われています。まばたきは涙を目の表面に行き渡らせる重要な役割を担っているため、まばたきの減少は涙の蒸発を促進し、目の乾燥を招きます。意識的に、ゆっくりと深くまばたきをする習慣をつけましょう。これにより、目の表面が潤い、涙の循環が促進されます。
また、長時間のPC作業は目の筋肉を緊張させ、眼精疲労の大きな原因となります。そこで、1時間に1回は10分程度の休憩を取り入れることをおすすめします。休憩中は、パソコン画面から目を離し、遠くの景色を眺めたり、軽く目を閉じたりするだけでも目のリフレッシュにつながります。このような定期的な休憩は、目の筋肉の緊張を和らげ、ドライアイによる不快感を軽減する効果が期待できます。
モニターの位置調整と加湿器の活用
PCモニターの配置を工夫することも、ドライアイ対策として有効です。モニター画面は、目線よりもやや下になるように調整することをおすすめします。モニターが目線より上にあると、自然と目を大きく開くことになり、目の表面が空気に触れる面積が増えて涙が蒸発しやすくなります。一方、目線より下にモニターを配置すると、まぶたが自然と下がり、目の露出面積が減るため、涙の蒸発を抑える効果が期待できます。
室内の乾燥もドライアイの大きな原因の一つです。特にエアコンを使用する環境では、空気が乾燥しやすく、涙の蒸発を加速させてしまいます。加湿器を活用し、室内の湿度を50〜60%に保つように心がけましょう。オフィス環境などで加湿器の設置が難しい場合は、デスクの近くに濡れタオルを置く、観葉植物を配置する、マスクを着用するなど、身近なもので湿度を保つ工夫も有効です。快適な湿度環境を整えることで、目の乾燥を防ぎ、ドライアイの症状緩和につながります。
【直接ケア】目の潤いを保つ方法
日々の環境改善に加えて、目そのものに直接アプローチするケアも、ドライアイの症状を和らげるために非常に効果的です。このセクションでは、目の潤いを保ち、涙の質を改善するための具体的な手段として、「温罨法」と「リッドハイジーン」という二つのケア方法について詳しくご紹介します。
目を温める「温罨法(おんあんぽう)」
目を温める「温罨法(おんあんぽう)」は、ドライアイの症状改善に非常に有効なセルフケアの一つです。特に、涙の油分を分泌するマイボーム腺の機能不全が原因でドライアイになっている場合に効果を発揮します。マイボーム腺は、油分が固まって詰まりやすい性質がありますが、温めることで油分を溶かし、分泌を促進することができます。これにより、涙の蒸発を防ぐ油層が安定し、涙の質が向上します。
具体的な方法としては、蒸しタオルや市販のホットアイマスクを使用するのが手軽です。40℃程度の心地よい温かさで、5分から10分程度まぶたを温めます。この温罨法は、ドライアイの治療ガイドラインでも強く推奨されている方法であり、多くの方に効果が期待できます。目の周りの血行も促進されるため、疲れ目の緩和にもつながります。
まぶたを清潔にする「リッドハイジーン」
温罨法と並行して実践したいのが、まぶたを清潔に保つ「リッドハイジーン」です。温罨法によってマイボーム腺内の油分が溶けやすくなった後、まぶたの生え際やまつ毛の根元を優しく洗浄することで、マイボーム腺の出口の詰まりや炎症の原因となる汚れを取り除くことができます。
市販のアイシャンプーや、低刺激性の洗浄剤を含ませたコットンなどを使用し、指の腹で優しくマッサージするように洗うのがポイントです。強くこすりすぎると肌を傷つけてしまう可能性があるため、注意が必要です。リッドハイジーンを温罨法とセットで行うことで、マイボーム腺の機能がさらに改善され、より効果的に涙の質を高めることが期待できます。清潔なまぶたは、ドライアイだけでなく、眼瞼炎(がんけんえん)などの他の目のトラブルの予防にもつながります。
【食生活】内側から目をケアする栄養素
目の健康は、日々の食生活と密接に関わっています。体の内側からケアすることで、ドライアイの症状を和らげ、予防につなげることが可能です。特に、ある特定の栄養素は目の粘膜の健康維持や涙の分泌に重要な役割を果たします。
その代表的な栄養素が「ビタミンA」です。ビタミンAは目の粘膜を健康に保ち、涙の成分であるムチンの分泌を促す働きがあります。ムチンは涙を目の表面にしっかりと留める役割を担っているため、ビタミンAの摂取は涙の質の改善に直結します。ビタミンAを多く含む食品としては、豚レバーや鶏レバー、うなぎ、卵黄、そしてにんじんやかぼちゃ、ほうれん草などの緑黄色野菜が挙げられます。
その他にも、青魚に多く含まれる「オメガ3脂肪酸」は、抗炎症作用があり、ドライアイの炎症を和らげる効果が期待できます。また、「ビタミンB群」は目の神経機能の維持に、「ビタミンC」や「ビタミンE」は抗酸化作用で目を保護する働きがあります。さらに、牛乳や乳製品に含まれる「ラクトフェリン」は、抗菌作用や涙腺の保護作用があると言われています。これらの栄養素をバランス良く摂取することで、内側から目の健康をサポートし、ドライアイの症状改善を目指しましょう。
【市販薬】目薬の正しい選び方と使い方
ドライアイのセルフケアにおいて、市販の目薬は手軽で効果的な選択肢の一つです。しかし、多種多様な目薬が販売されているため、どれを選べば良いのか迷ってしまうことも少なくありません。このセクションでは、ご自身の症状や状況に合った目薬を選ぶための基準と、その効果を最大限に引き出すための正しい点眼方法について解説します。
まずは人工涙液から試してみる
ドライアイ対策として市販の目薬を使用する場合、まずは涙の成分に近い「人工涙液」から試してみることをおすすめします。人工涙液は、不足した涙液をシンプルに補うことを目的とした目薬で、有効成分の種類が少ないため、比較的副作用のリスクが低いという特徴があります。
特に、パソコン作業などで一時的に目が乾きやすい方や、コンタクトレンズを装用しているために目の乾燥を感じやすい方には適しています。人工涙液は、目の表面の潤いを一時的に回復させることで、目の不快感を和らげ、目の保護にもつながります。様々な種類の人工涙液が市販されていますが、ご自身の症状に合わせて適切なものを選びましょう。
防腐剤の有無と正しい点眼方法
目薬を選ぶ上で非常に重要なのが、「防腐剤の有無」です。特に、ドライアイの症状が強く、1日に5回以上など頻繁に目薬を点眼する必要がある場合は、防腐剤が含まれていない製品を選ぶようにしましょう。防腐剤は、目薬の品質を保つために配合されていますが、頻繁に点眼すると角膜に負担をかけ、目の表面を傷つけてしまう可能性があります。最近では、防腐剤フリーの人工涙液も多く市販されていますので、パッケージの表示をよく確認してください。
また、目薬の効果を最大限に引き出し、目のトラブルを防ぐためには、正しい点眼方法を知ることが大切です。まず、点眼前に手を清潔に洗いましょう。点眼する際は、容器の先端が目やまぶた、まつ毛に触れないように注意し、雑菌の混入を防ぎます。点眼後は、すぐにまばたきをせずに、まぶたを優しく閉じて1分ほどそのまま目を休ませ、目頭を軽く押さえるようにしましょう。これにより、薬の成分が目の表面にしっかりと浸透し、鼻涙管から流れ出るのを防ぐことができます。正しい点眼方法を実践し、目薬の効果を無駄なく活用しましょう。
セルフケアで改善しない場合は眼科へ|専門的な検査と治療法
これまでドライアイの予防とセルフケアについてご紹介しましたが、ご自身の努力だけでは症状が改善しない場合や、目の痛みや不快感が生活の質を著しく低下させている場合は、躊躇せずに眼科を受診することが大切です。
自己判断には限界があり、ドライアイの原因は多岐にわたるため、専門医による正確な診断と適切な治療が不可欠になります。このセクションでは、どのような症状があれば眼科を受診すべきかの目安から、眼科で行われる専門的な検査や治療法まで、詳しく解説します。専門家の力を借りて、つらいドライアイの症状を効果的に改善していきましょう。
眼科を受診すべき症状の目安
ドライアイの症状がセルフケアでなかなか改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほど強くなってきた場合は、早めに眼科を受診することが重要です。以下のような症状が見られる場合は、迷わず専門医に相談してください。
まず、市販の目薬を頻繁に使っても、目の乾きや疲れが一時的にしか和らがず、すぐに症状がぶり返す場合は、より専門的な治療が必要なサインかもしれません。次に、目の奥や表面に慢性的な痛みが続く場合も、角膜に傷がついているなど、目の表面にトラブルが生じている可能性が考えられます。また、朝起きた時から目が開けにくい、光がまぶしくて目を開けていられない、ものがかすんで見えにくい状態が続くといった場合も、眼科での精密検査が必要です。これらの症状を放置すると、角膜の損傷が進み、将来的に視力低下につながるリスクもあります。早期に眼科を受診することで、目の状態を正確に把握し、適切な治療を受けることができます。
眼科で行う主な検査方法
眼科を受診すると、まず問診で現在の症状や生活習慣について詳しく尋ねられます。その後、目の状態を把握するための様々な検査が行われます。これらの検査は、ドライアイの原因や重症度を特定し、患者様一人ひとりに最適な治療法を見つけるために不可欠です。
このセクションでは、眼科で行われる主な検査方法について具体的にご紹介し、それぞれの検査がどのような目的で行われるのか、そして何がわかるのかを詳しく解説します。検査の内容を事前に知っておくことで、安心して受診に臨めるでしょう。
涙の質を調べる「BUT検査」
ドライアイの診断において特に重要な検査の一つが「BUT(Break-Up Time/涙液層破壊時間)検査」です。この検査は、涙の安定性、つまり涙の膜がどれくらいの時間、目の表面にとどまっているかを調べるために行われます。
検査方法はいたってシンプルです。まず、少量のフルオレセインという黄色い染色液を目の表面に点眼します。この染色液は涙に溶けて広がり、涙の膜の状態を観察しやすくします。次に、患者様にはまばたきを我慢していただき、医師は細隙灯顕微鏡という特殊な顕微鏡を使って、涙の膜が目の表面で乾燥して壊れ始めるまでの時間を測定します。この時間が短ければ短いほど、涙の膜が不安定で蒸発しやすい、つまりドライアイの可能性が高いと判断されます。一般的に、BUTが5秒以下である場合はドライアイの診断基準の一つとなります。以前ご紹介した「10秒まばたきを我慢するセルフチェック」は、このBUT検査の簡易版であり、涙の安定性を手軽に測る方法としてご自宅でも応用できる目安となるものです。
眼科医が解説するドライアイの専門的な治療法
ドライアイと診断された場合、眼科では症状のタイプや重症度に応じて、さまざまな専門的な治療法が提案されます。市販薬でのセルフケアだけでは改善が難しい症状に対して、より効果的なアプローチが可能になります。
このセクションでは、眼科で処方される点眼薬の種類から、涙の排出を物理的に抑える「涙点プラグ」、そしてマイボーム腺機能不全に対する最新治療「IPL」まで、代表的な治療法を分かりやすく解説します。ご自身の症状に合った治療法を見つけるためにも、それぞれの治療法の目的と効果を理解しておきましょう。
処方される点眼薬の種類(ヒアルロン酸・ジクアホソルなど)
眼科でドライアイと診断された際に、最も一般的に処方されるのが点眼薬です。一口に点眼薬と言っても、その種類は多岐にわたり、それぞれ異なる作用機序でドライアイの症状を改善します。
代表的なものとしては、「ヒアルロン酸ナトリウム点眼液」が挙げられます。これは、涙の量を補い、目の表面の潤いを保つことで、角膜の傷の修復を助ける効果があります。角膜保護作用に優れており、広く用いられています。次に、「ジクアホソルナトリウム点眼液」は、目の表面の細胞に働きかけ、涙の成分である水分とムチンの分泌を促進する作用があります。涙の量を増やし、涙の質を改善することで、目の潤いを保ちやすくします。また、「レバミピド点眼液」も同様にムチンの分泌を促進し、涙の安定性を高める効果が期待できます。これらの点眼薬は、患者様の涙の量や質、目の傷の状態などに応じて使い分けられたり、組み合わせて処方されたりします。医師の指示に従い、正しく点眼することが治療効果を高める上で非常に重要です。
涙の排出を抑える「涙点プラグ」
涙の分泌量が少ないタイプのドライアイに対して有効な治療法の一つに、「涙点プラグ」があります。これは、涙の排出口である「涙点」に小さな栓をすることで、涙が目の表面に長く留まるようにする治療です。
涙点とは、目頭にある上下2か所の小さな穴で、涙はこの涙点を通って鼻腔へと排出されます。涙点プラグは、シリコン製の非常に小さな米粒ほどの栓をこの涙点に挿入するもので、涙が排出されるのを物理的に防ぎ、目の表面に涙を貯留させる効果があります。処置は通常、点眼麻酔をして外来で短時間のうちに行われ、痛みはほとんど感じません。挿入されたプラグは通常、自然に抜けることはありませんが、必要に応じて取り外すことも可能です。この治療法は、特に涙の量的異常によるドライアイの症状を効果的に緩和し、目薬の使用頻度を減らすことにもつながります。
最新治療「IPL(Intense Pulsed Light)」とは
近年、ドライアイの新たな治療法として注目されているのが「IPL(Intense Pulsed Light)」です。特に、ドライアイの原因の多くを占めるマイボーム腺機能不全(MGD)に対して効果が期待されており、先進的な治療として導入している眼科が増えています。
IPLは、医療用の特殊な光(インテンス・パルス・ライト)をまぶたの周囲に照射する治療法です。この光エネルギーが、マイボーム腺の詰まりを解消したり、マイボーム腺周囲の炎症を抑えたりする効果があると考えられています。また、目の周りの異常な毛細血管を減少させることで、炎症性物質の供給を抑制する働きも指摘されています。治療は数回にわたって行われることが一般的で、回数は症状の程度によって異なります。光を照射する際は、目を保護するためのゴーグルを装着します。IPL治療は、従来の点眼薬や温罨法だけでは改善が難しかったマイボーム腺機能不全によるドライアイに対して、画期的なアプローチを提供するものです。ただし、この治療は保険適用外となる場合が多く、費用は全額自己負担となりますので、治療を検討する際は、事前に眼科医とよく相談し、説明を受けるようにしましょう。
ドライアイに関するよくある質問(Q&A)
このセクションでは、ドライアイに関して多くの方が疑問に思われている点について、Q&A形式でお答えしていきます。これまで解説してきた内容を踏まえ、さらに具体的な疑問や不安の解消に役立つ情報を提供します。ぜひ最後まで読んで、ドライアイに関する理解を深めてください。
ドライアイを放置すると視力は低下しますか?
はい、ドライアイを放置すると視力が低下する可能性があります。重度のドライアイは、目の表面、特に角膜に傷を作りやすくなります。
角膜は透明で滑らかな表面をしていることで、光をきれいに網膜に届ける役割を果たしています。しかし、ドライアイによって角膜が乾燥し、傷ができると、その表面に凹凸が生じます。この凹凸が原因で、光が不規則に屈折し、ものが歪んで見えたり、かすんで見えたりする「不正乱視」を引き起こすことがあります。
さらに、角膜の傷が深く進行した場合、視力に恒久的な影響を与えるリスクも考えられます。目の不快感だけでなく、視機能への影響も考慮し、早期の対策と適切な治療が重要です。
ドライアイは完治しますか?
ドライアイは、完治が難しいことが多い病気です。高血圧や糖尿病のように、体質や日々の生活習慣が大きく関わる慢性的な疾患として捉えられています。
しかし、完治が難しいからといって諦める必要はありません。適切な治療とセルフケアを継続することで、症状をコントロールし、快適な状態を維持することは十分に可能です。治療の目的は、ドライアイのつらい症状を緩和し、目の健康を保ちながら、日常生活の質を高めることにあります。定期的な眼科受診と、ご自身の生活習慣の見直しを続けることが大切です。
コンタクトレンズの上から使える目薬はありますか?
コンタクトレンズの上から使える目薬はあります。ただし、注意が必要です。コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズは、目薬の成分や防腐剤を吸収しやすい性質があります。不適切な目薬を使用すると、レンズが変質したり、目の刺激になったりする可能性があります。
そのため、コンタクトレンズ装用中に目薬を使用する場合は、「コンタクトレンズ用」と明記されている製品を選ぶようにしてください。また、防腐剤無添加の人工涙液は、コンタクトレンズの種類を問わず比較的安全に使えることが多いので、迷った場合は選択肢の一つとして検討すると良いでしょう。必ず製品の注意書きを確認し、ご自身のコンタクトレンズの種類に合ったものを選んでください。
まとめ:ドライアイは正しい知識で改善できる。つらい症状は専門医に相談を
今回はドライアイの原因から、ご自身でできる予防法やセルフケア、そして専門的な検査や治療法まで、幅広くご紹介しました。
ドライアイは、多くの方が抱える身近な目の不調でありながら、放置すると視力低下のリスクもある病気です。しかし、正しい知識を持って適切な対策を行うことで、症状の改善が期待できます。まず、日々の生活習慣を見直し、意識的なまばたきや休憩、モニター位置の調整、加湿器の活用、目の温罨法といったセルフケアを実践してみましょう。
もしセルフケアを続けても症状が改善しない場合や、目の痛み、かすみ、異物感が続くなど、つらい症状がある場合は、決して我慢せず眼科専門医に相談してください。眼科では、ドライアイのタイプに応じた点眼薬の処方や、涙点プラグ、IPL治療といった専門的な治療を受けることができます。ご自身の目の健康を守るためにも、早めの受診を検討しましょう。

