「バセドウ病と診断され、目にも変化が出てきた」
「まぶたが腫れぼったく、目が飛び出してきたように感じる」
「物が二重に見えることがあって不安…」
甲状腺の病気であるバセドウ病と診断された患者さんの中には、このような目に関する症状で深く悩んでいる方が少なくありません。バセドウ病に伴って目に現れる一連の症状を、「バセドウ病眼症」または「甲状腺眼症」と呼びます。
この病気は、見た目の変化による精神的なストレスが大きいだけでなく、進行すると視力に深刻な影響を及ぼす可能性もあるため、甲状腺を治療している内科とは別に、眼科での専門的な検査と管理が非常に重要になります。
この記事では、バセドウ病による目の症状に不安を感じている患者さんに向けて、眼科専門医の立場から以下の内容を詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
- なぜ甲状腺の病気で、目に症状が出るのか?
- 眼球突出だけじゃない、バセドウ病眼症の様々な症状
- 病気の進行段階(活動期・非活動期)と、絶対に守るべき生活習慣
- 症状と時期に応じた、眼科での専門的な治療法
この記事を最後までお読みいただくことで、バセドウ病眼症への正しい知識が身につき、ご自身の目の状態を理解し、前向きに治療に取り組むための一助となります。
なぜバセドウ病で目に症状がでるのか?
バセドウ病は、甲状腺を異物とみなす「自己抗体」が作られ、その抗体が甲状腺を過剰に刺激することで、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される自己免疫疾患です。
バセドウ病眼症は、この甲状腺を攻撃する自己抗体が、目の奥にある筋肉(外眼筋)や脂肪組織(眼窩脂肪)を同じように異物と認識し、攻撃してしまうことで発症すると考えられています。攻撃された目の奥の組織は、炎症を起こして腫れあがります。眼球は「眼窩(がんか)」という骨のくぼみにはまっていますが、その後ろにある組織が腫れることで、眼球が前方に押し出されたり(眼球突出)、筋肉の動きが悪くなったりするのです。
【重要】甲状腺ホルモンの値と、目の症状は連動しない
多くの患者さんが誤解しやすい点ですが、血液中の甲状腺ホルモンの値が正常にコントロールされていても、目の症状が進行することは珍しくありません。バセドウ病眼症は、甲状腺機能とは独立した経過をたどることがあるため、「内科で甲状腺は落ち着いているから大丈夫」と自己判断せず、必ず眼科での定期的な検査を続ける必要があります。
バセドウ病眼症の様々な症状
バセドウ病眼症では、以下のような多彩な症状が現れます。これらの症状は、片方の目だけに強く出ることもあります。
- 眼瞼後退:上まぶたが吊り上がり、白目の見える範囲が広くなった状態です。驚いたような、「睨んでいる」と誤解されるような特徴的な顔つきになります。
- 眼球突出:目の奥の組織が腫れることで、眼球が前方に押し出された状態です。バセドウ病眼症の最もよく知られた症状です。
- まぶたの腫れ(眼瞼腫脹):特に朝起きた時に、まぶたがパンパンに腫れぼったくなります。
- 目の充血・異物感:結膜に炎症が及ぶことで、目が赤くなったり、ゴロゴロしたりします。
- 複視:物が二重に見える症状です。目の筋肉が腫れて動きが悪くなることで、両目の視線が合わなくなり、物がダブって見えます。上や横を見た時に特に強く感じることが多いです。
- 兎眼・角膜障害:眼球突出やまぶたの吊り上がりが原因で、まぶたが完全に閉じられなくなり、目の表面が乾燥して傷がついてしまう状態です。強い痛みや視力低下を伴います。
- 圧迫性視神経症:最も重篤な症状です。腫れあがった筋肉が視神経を圧迫し、視力低下や視野欠損を引き起こします。放置すれば失明に至る可能性があり、緊急の治療が必要です。
病気の進行段階と、絶対に守るべき「禁煙」
バセドウ病眼症は、大きく2つの時期(フェーズ)に分けられ、それぞれの時期で治療方針が異なります。
- 活動期:目の奥で活発に炎症が起きている時期です。まぶたの腫れや目の充血、痛みなどが強く現れ、症状が変動しやすいのが特徴です。通常、発症から1〜2年続きます。この時期は、炎症を抑える治療が中心となります。
- 非活動期:活発な炎症が治まった「燃え尽きた」状態の時期です。痛みや充血は落ち着きますが、活動期に生じた眼球突出や複視、眼瞼後退などの変化は、そのまま固定化して残ってしまいます。この時期は、後遺症として残った変形を治すための手術治療が中心となります。
【最も重要】喫煙は、バセドウ病眼症を悪化させる最大の危険因子です
様々な研究により、喫煙はバセドウ病眼症の発症リスクを高め、症状を著しく悪化させ、さらに治療効果を低下させることが明らかになっています。バセドウ病と診断された方は、ご自身の目の健康を守るために、絶対に禁煙することが何よりも重要です。
眼科での専門的な治療法
眼科では、バセドウ病眼症の時期と重症度に応じて、以下のような治療を組み合わせて行います。
※当院ではバセドウ病眼症の診察は行っておりますが治療は行っておらず、治療が費用な場合は専門病院へご紹介しています。
活動期の治療(炎症を抑える治療)
- ステロイド療法:活動期の炎症を抑えるための中心的な治療です。炎症が中等度〜重度の場合は、入院して高用量のステロイドを点滴で投与する「ステロイドパルス療法」を行います。
- 放射線外照射療法:目の奥の腫れた組織に放射線を照射することで、炎症細胞の働きを抑え、腫れを軽減させる治療です。ステロイド療法と併用して行われることもあります。
- 対症療法:目の乾燥に対しては人工涙液や軟膏、複視に対してはプリズム眼鏡など、症状を和らげるための治療も行います。
非活動期の治療(後遺症を治す手術)
炎症が治まった後に残った変形に対しては、機能と見た目を改善させるための手術を検討します。手術は通常、①→②→③の順番で行います。
- 眼窩減圧術:突出した眼球を元の位置に戻すための手術です。眼窩の骨の一部を削ったり、奥の脂肪を取り除いたりすることで、眼窩内のスペースを広げます。
- 斜視手術:複視(物が二重に見える)を改善するための手術です。硬くなった目の筋肉の位置をずらして付け直し、両目の視線を合わせます。
- 眼瞼手術:吊り上がった上まぶたを下げる(眼瞼後退修正術)など、まぶたの形を整える手術です。
まとめ:内科と眼科の連携で、大切な目を守りましょう
バセドウ病眼症は、全身の病気と深く関わる、非常に専門的な管理が必要な目の病気です。
【この記事のポイント】
- バセドウ病眼症は、甲状腺への自己抗体が、目の奥の組織を攻撃することで発症する。
- 甲状腺の機能が正常でも、目の症状は進行することがあるため、眼科の定期検査が不可欠。
- 症状は、眼球突出、複視、まぶたの腫れなど多彩。
- 喫煙は症状を著しく悪化させるため、絶対に禁煙が必要。
- 治療は、炎症が活発な「活動期」と、炎症が治まった「非活動期」で方針が異なる。
バセドウ病と診断されたら、たとえ目に自覚症状がなくても、必ず一度は眼科を受診してください。
そして、もし目の突出やまぶたの腫れ、物の見え方の異常などにお気づきでしたら、決して一人で悩まず、私たち専門医にご相談ください。
当院では、甲状腺を治療されている内科の先生方と密に連携を取りながら、患者さん一人ひとりの目の状態に合わせた最適な治療計画をご提案し、大切な目の機能と整容的なお悩みの両面から、全力でサポートいたします。