麦粒腫(ものもらい)・霰粒腫

麦粒腫(ものもらい)・霰粒腫

「まぶたが赤く腫れて痛い」
「まぶたの中にコリコリしたしこりができた」
「これって、ものもらい?」

まぶたにできる腫れやしこりは、多くの方が一度は経験する身近な目のトラブルです。一般的に「ものもらい」や「めばちこ」と呼ばれ、多くの場合は「麦粒腫」「霰粒腫」という2つの疾患のどちらかにあたります。

この2つは症状が似ているため混同されがちですが、実は原因も治療法も全く異なります。自己判断で間違ったケアをしてしまうと、症状を悪化させたり、治りを遅らせたりする原因にもなりかねません。

この記事では、まぶたのトラブルでお悩みの患者さんやそのご家族に向けて、眼科専門医の立場から以下の内容を詳しく、そして分かりやすく解説していきます。

  • 「麦粒腫」と「霰粒腫」の根本的な違い
  • それぞれの原因と特徴的な症状
  • 眼科で行われる正しい治療法(点眼薬から手術まで)
  • 悪化させないための注意点と、ご家庭でできるケア

この記事を最後までお読みいただくことで、ご自身の症状への理解が深まり、適切な対処法が明確になります。まぶたの不快な症状から一日でも早く解放されるために、ぜひご一読ください。

目次

麦粒腫(ものもらい)と霰粒腫の違い

麦粒腫(ものもらい)・霰粒腫

まず、2つの病気の最も大きな違いを理解することが重要です。簡単に言えば、麦粒腫は「細菌感染症」、霰粒腫は「脂の詰まり」です。

麦粒腫とは

一般的に「ものもらい」「めばちこ」と呼ばれるものの多くはこちらです。まぶたにある汗を出す腺(汗腺)や、まつ毛の毛根に細菌が感染して炎症を起こし、膿がたまる病気です。まぶたのニキビをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
主な症状は「痛み」と「赤み」で、比較的急に発症します。

霰粒腫とは

まぶたの縁にある、涙の油分を分泌するマイボーム腺という器官が詰まることで起こります。出口を失った脂が腺の中に溜まり、肉芽腫というしこりを形成する病気です。
主な症状は「しこり」で、初期には痛みや赤みを伴わないことがほとんどです。ゆっくりと時間をかけて大きくなる傾向があります。

以下の表で、それぞれの特徴を比較してみましょう。

スクロールできます
麦粒腫(ものもらい)霰粒腫
原因細菌感染
(主に黄色ブドウ球菌)
マイボーム腺の詰まり
主な症状痛み、赤み、腫れ、膿点しこり(コリコリする)、異物感
痛みの有無ある(押すと痛い)ない(ただし炎症を起こすと痛む)
進行の速さ比較的速いゆっくり

※霰粒腫に細菌感染が合併すると「化膿性霰粒腫」となり、麦粒腫のように赤く腫れて痛むこともあります。このため、自己判断は非常に困難です。

原因と悪化させてしまう要因

なぜ麦粒腫や霰粒腫になってしまうのでしょうか。その原因と、症状を悪化させる生活習慣について見ていきましょう。

麦粒腫の原因

麦粒腫の直接的な原因は、私たちの皮膚や手指に常に存在している「黄色ブドウ球菌」などの細菌です。以下のような時に感染のリスクが高まります。

  • 疲労やストレス、寝不足などで体の抵抗力が落ちている時
  • 汚れた手で目をこすってしまった時
  • 不衛生なコンタクトレンズを使用している時
  • アイメイクがしっかりと落とせていない時

霰粒腫の原因

霰粒腫の直接的な原因は、マイボーム腺の詰まりです。詰まりやすくなる要因としては、以下のようなものが考えられます。

  • 脂っこい食事の多い食生活
  • ホルモンバランスの乱れ
  • アイラインなど、目のキワにするメイクの落とし残し
  • 体質的なもの(マイボーム腺の脂が固まりやすいなど)

当院で行う治療法

麦粒腫と霰粒腫は原因が違うため、治療法も異なります。鶴見区今福鶴見の大阪鶴見まつやま眼科では、症状を正確に診断し、適切な治療を選択します。

麦粒腫の治療

細菌感染が原因のため、治療の中心は「抗菌」です。

  1. 抗菌薬の点眼・軟膏:原因となっている細菌を殺菌するための目薬や軟膏を処方します。これが治療の基本です。症状が軽ければ、数日〜1週間程度で改善に向かいます。
  2. 内服の抗菌薬:炎症が強い場合や、症状がまぶた全体に広がっている場合には、内服薬(飲み薬)を併用することもあります。
  3. 切開・排膿:膿がたまってパンパンに腫れてしまった場合、放置すると皮膚が破れて跡が残ることがあります。そのような場合は、クリニックでまぶたの表面を少しだけ切開し、中の膿を排出させる処置を行います。麻酔をするので痛みはほとんどなく、処置後は治りが格段に早くなります。決してご自身で潰さないでください。
    ※当院では眼瞼の手術は行っておりません。

霰粒腫の治療

脂の詰まりが原因のため、治療法は症状の程度や大きさによって様々です。

  1. 点眼薬による治療:しこりが小さく、炎症を伴っている(赤みや痛みがある)場合には、ステロイド点眼薬や抗菌薬の点眼で炎症を抑えます。炎症が治まると、しこりが自然に吸収されて小さくなることもあります。
  2. 温罨法とマッサージ:詰まった脂を溶かして排出しやすくするために、蒸しタオルなどでまぶたを温める「温罨法」や、まぶたの縁を優しくマッサージする方法を指導することがあります。
  3. ステロイド注射(ケナコルト注射):しこりが大きく、なかなか改善しない場合に、しこりの中に直接ステロイド薬を注射する方法です。注射によって炎症が強力に抑えられ、しこりが小さくなる効果が期待できます。ただし、皮膚が薄くなったり、色が白っぽくなったりする副作用のリスクもあります。
  4. 摘出手術(切開):しこりが大きい場合や、見た目が気になる場合、何度も再発する場合には、手術でしこりを根本から取り除くことを検討します。まぶたの裏側(結膜側)から切開することが多く、その場合は皮膚の表面に傷跡が残る心配はありません。局所麻酔で行う15分程度の日帰り手術です。
    ※当院では眼瞼の手術は行っておりません。

ご家庭での注意点|絶対にやってはいけないこと

まぶたに異常を感じた時、悪化させないために気をつけていただきたいことがあります。

  • 絶対に自分で潰さない、触らない:特に麦粒腫を自分で潰すと、細菌が周囲に広がり、炎症が悪化してしまいます(眼窩蜂窩織炎など)。また、霰粒腫のしこりを無理に押すと、強い炎症を引き起こす原因になります。
  • コンタクトレンズの使用を中止する:レンズが患部を刺激したり、細菌の温床になったりします。治るまではメガネを使用してください。
  • アイメイクは控える:症状を悪化させるだけでなく、治りを遅らせる原因になります。
  • お酒を控える:アルコールは血行を良くし、炎症を悪化させる可能性があります。

まとめ:まぶたのしこりや腫れは、放置せず眼科へご相談ください

今回は、多くの方が経験する「麦粒腫」と「霰粒腫」について、その違いと治療法を解説しました。

  • まぶたのトラブルは主に「麦粒腫(細菌感染)」「霰粒腫(脂の詰まり)」の2つ。
  • 「痛み」があれば麦粒腫「痛みのないしこり」なら霰粒腫の可能性が高いが、自己判断は禁物。
  • 悪化させないためには、「触らない・潰さない」「コンタクトとメイクを控える」ことが重要。
  • 市販薬で改善しない場合や、しこりが大きい場合は、眼科での適切な処置や手術が必要です。

まぶたの腫れやしこりは、単なる「ものもらい」と軽く考えられがちですが、放置したり、間違ったケアをしたりすると、長引くだけでなく、見た目の問題にもつながります。まれに悪性腫瘍などの重篤な病気が隠れている可能性もゼロではありません。

少しでも気になる症状があれば、自己判断で様子を見ずに、ぜひお早めに眼科専門医にご相談ください。

鶴見区今福鶴見の大阪鶴見まつやま眼科では、患者さん一人ひとりの症状を丁寧に診察し、麦粒腫・霰粒腫の治療法をご提案いたします。

麦粒腫(ものもらい)・霰粒腫 よくあるご質問(Q&A)

「朝起きたら、まぶたが赤く腫れて痛い」「まぶたの中にコリコリしたしこりができた」…。このようなまぶたのトラブルは、多くの方が経験する一般的な症状です。これらは俗に「ものもらい」と呼ばれますが、実は原因や対処法が異なる「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」と「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」という2つの病気の可能性があります。

ここでは、これらの病気について患者さんからよくいただくご質問とその回答をまとめました。

まぶたの腫れやしこりは、多くの場合は適切に治療すればきれいに治ります。
症状に気づいたら、悪化する前に、お気軽に当院にご相談ください。

「麦粒腫」と「霰粒腫」はどう違うのですか?

「麦粒腫」と「霰粒腫」は、どちらもまぶたが腫れる病気ですが、その原因が全く異なります。

「麦粒腫」は、まつ毛の根元にある汗や脂を出す腺に、細菌が感染して起こる急性の炎症です。分かりやすく言うと「まぶたにできるニキビ」のようなものです。そのため、症状としては赤みや腫れに加えて、「ズキズキとした痛み」を伴うことが多く、膿(うみ)がたまって白く見えることもあります。

一方、「霰粒腫」は、まぶたの縁にある「マイボーム腺」という、涙の油分を分泌する腺の出口が詰まることで起こります。こちらは細菌感染ではないため、初期には痛みや赤みはほとんどなく、「コリコリとしたしこり」として触れるのが特徴です。ただし、詰まった脂に細菌が感染すると、霰粒腫が急に赤く腫れて痛みを伴うこともあり、麦粒腫との区別が難しくなる場合があります。

麦粒腫や霰粒腫は、なぜできるのですか?

それぞれの原因は異なりますが、どちらも体の抵抗力が落ちているときに発症しやすくなります。

「麦粒腫」の直接的な原因は、黄色ブドウ球菌などの細菌です。汚れた手で目をこすったり、清潔でないコンタクトレンズを使用したりすることで、細菌が腺に入り込み、感染を起こします。特に、疲労やストレス、睡眠不足などで体の免疫力が低下していると、普段は問題にならないような細菌にも感染しやすくなるため注意が必要です。

「霰粒腫」は、マイボーム腺の詰まりが原因です。体質的に脂の分泌が多い方や、アイメイクがしっかりと落とせていない場合に起こりやすくなります。また、不規則な生活やストレスによるホルモンバランスの乱れが、腺の働きに影響を与え、詰まりを誘発することもあります。

手術の費用はどのくらいかかりますか?保険は適用されますか?

白内障手術は、健康保険が適用される治療です。患者さんのご年齢や所得に応じて、医療費の自己負担額(1割~3割)が変わります。一般的な単焦点眼内レンズを使用した場合、片眼あたりの費用の目安は、1割負担の方で2万円前後、3割負担の方で5万円前後となります。

また、医療費が高額になった場合に自己負担額を軽減できる「高額療養費制度」も利用できます。生命保険の「手術給付金」の対象となる場合もありますので、ご加入の保険会社にご確認ください。なお、多焦点眼内レンズなど、保険適用外のレンズ(選定療養)をご希望の場合は、別途追加費用が必要となります。費用に関する詳細は、診察時に詳しくご説明いたしますので、お気軽にご質問ください。

どのような治療法がありますか?市販の目薬を使っても良いですか?

原因が異なるため、治療法も変わってきます。そのため、自己判断で市販薬を使用するのではなく、まずは眼科で正確な診断を受けることが非常に重要です。

「麦粒腫」の治療は、原因となっている細菌を殺すことが基本です。主に、抗菌作用のある点眼薬や眼軟膏を処方します。炎症が強い場合は、内服の抗生物質を併用することもあります。早期に適切な治療を開始すれば、多くは1~2週間程度で治癒します。

「霰粒腫」の治療は、詰まった脂による炎症を抑えることが中心です。ステロイドの点眼薬や眼軟膏を使用したり、まぶたを温めて脂の排出を促したりします。しこりが大きい場合や、炎症を繰り返す場合は、手術(切開)を検討することもあります。市販の抗菌目薬は、霰粒腫の炎症には効果が期待できないため、注意が必要です。

ものもらいは、他の人にうつりますか?

「ものもらい」という名前から、人からもらったり、人にうつしてしまったりするのではないかと心配される患者さんは非常に多いですが、ご安心ください。麦粒腫も霰粒腫も、どちらも他の人にうつることはありません。

麦粒腫の原因は細菌感染ですが、原因となる黄色ブドウ球菌などは、私たちの皮膚や喉にも普段から存在する「常在菌」です。たまたま体の抵抗力が落ちたタイミングで、ご自身の常在菌が増殖して炎症を起こしている状態であり、感染力が強いウイルス性の結膜炎(はやり目)とは全く異なります。そのため、学校や仕事を休む必要はありませんし、タオルやお風呂を家族と分ける必要もありません。

手術(切開)が必要になるのは、どのような場合ですか?痛いですか?

主に「霰粒腫」で、薬による治療で改善が見られない場合や、しこりが非常に大きくなって見た目が気になる場合、また、炎症を何度も繰り返す場合に手術(切開排膿)を検討します。

手術と聞くと怖く感じられるかもしれませんが、点眼麻酔と注射による局所麻酔を行いますので、手術中の痛みはほとんどありません(麻酔の注射の際に少し痛みはあります)。まぶたの裏側を少しだけ切開し、中に溜まった脂や膿を丁寧に取り出します。皮膚の表面ではなく、まぶたの裏側から切開することが多いため、顔に傷跡が残る心配もありません。手術後は眼帯をしますが、翌日には外せる場合がほとんどです。

予防法はありますか?また、温めるのと冷やすのは、どちらが良いですか?

麦粒腫・霰粒腫を予防するためには、日頃の生活習慣が大切です。第一に、目の周りを清潔に保つことです。汚れた手で目をこすらない、コンタクトレンズは正しくケアする、アイメイクは寝る前にしっかり落とす、などを心がけましょう。また、疲労やストレスを溜めないように、十分な睡眠とバランスの取れた食事を意識することも、体の抵抗力を高める上で重要です。

ご家庭での対処法として「温めるか冷やすか」で迷われる方が多いですが、これは病状によって異なります。

  • 冷やす:麦粒腫のなり始めで、赤みや痛みが強い「急性期」には、冷やすことで炎症と痛みを和らげる効果が期待できます。
  • 温める:霰粒腫や、痛みが引いた後の麦粒腫には、蒸しタオルなどでまぶたを温める「温罨法(おんあんぽう)」が有効です。血行が良くなり、マイボーム腺に詰まった脂が溶けて排出されやすくなります。

ただし、自己判断は禁物です。まずは眼科を受診し、ご自身の状態に合った適切な対処法の指導を受けてください。

目次