網膜剥離

網膜剥離

「目の前に黒い点がたくさん飛ぶようになった」
「視界の端で光がピカッと光る」
「視野の一部がカーテンのように見えない…」

このような症状を経験し、不安に感じてこのページにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。その症状、もしかしたら緊急治療が必要な「網膜剥離」の前触れ、あるいはすでに発症しているサインかもしれません。

網膜剥離は、痛みがないため油断しがちですが、放置すると徐々に見える範囲が狭まり、最終的には失明に至る可能性のある非常に恐ろしい病気です。しかし、この病気は早期に発見し、迅速に適切な治療を受ければ、視力を守れる可能性が格段に高まります

この記事では、網膜剥離について不安を抱えている患者さんやそのご家族に向けて、眼科専門医の立場から以下の内容を網羅的に、そして分かりやすく解説していきます。

  • そもそも網膜剥離とは何か?
  • 見逃してはいけない危険な初期症状
  • 網膜剥離が起こる原因と、なりやすい人の特徴
  • クリニックで行われる検査と診断方法
  • 網膜剥離の進行度に応じた治療法(レーザーや手術)

この記事を最後までお読みいただくことで、網膜剥離という病気への正しい知識が身につき、ご自身の目を守るために「今すぐ何をすべきか」が明確になります。あなたのその症状は、目からの重要なSOSサインです。大切な視力を失わないために、ぜひ最後までお読みください。

目次

網膜剥離とは

網膜剥離とは、眼球の内側にある「網膜」という膜が、その土台である「網膜色素上皮」から剥がれてしまう状態を指します。

網膜は、目に入ってきた光を感知し、その情報を脳に送る役割を持つ、カメラで言えば「フィルム」やデジタルカメラの「イメージセンサー」にあたる非常に重要な組織です。網膜が正常な位置から剥がれてしまうと、栄養が届かなくなり、光を感知する細胞(視細胞)の機能が急速に低下してしまいます。この状態が長く続くと、視細胞は回復不可能なダメージを受け、視力が元に戻らなくなってしまうのです。

特に、物を見る中心である「黄斑(おうはん)」まで剥がれてしまうと、急激な視力低下をきたし、治療が成功しても視力回復が困難になることがあります。だからこそ、網膜剥離は「時間との勝負」と言われる眼科の緊急疾患なのです。

網膜剥離の初期症状

網膜剥離は、剥がれる過程で特徴的な前触れや初期症状が現れます。以下の症状に一つでも当てはまる場合は、自己判断せず、すぐに眼科を受診してください。

飛蚊症

目の前に黒い点やゴミ、虫、髪の毛のようなものがフワフワと飛んで見える症状です。特に、「急に数が増えた」「大きな黒い影が見えるようになった」「墨を流したように見える」といった急な変化は、網膜に裂け目(網膜裂孔)ができて出血しているサインかもしれません。これは非常に危険な兆候です。

光視症

視界の端の方で、実際にはない光がピカッ、チカチカッと稲妻のように見える症状です。これは、網膜が硝子体(しょうしたい)という眼球内の組織に引っ張られることで起こる刺激が原因です。網膜に裂け目ができる瞬間に感じることが多く、網膜剥離の前兆として重要な症状です。

視野欠損

網膜剥離が始まると、剥がれた部分に対応する視野が欠けて見えなくなります。上の方から黒いカーテンが下りてくるように見える」「横から影が迫ってくる感じがする」などと表現されることが多いです。この影は、時間とともに中心に向かって広がってきます。

変視症・視力低下

剥離が物を見る中心である黄斑部にまで及ぶと、物が歪んで見えたり(変視症)、急激に視力が低下したりします。この状態になると、手術をしても良好な視力が得られない可能性が高くなるため、一刻も早い治療が必要です。

重要なのは、これらの症状は全く痛みを伴わないことです。痛みがないからと放置してしまうと、取り返しのつかない事態になりかねません。

網膜剥離の原因とリスクが高い人

網膜剥離はいくつかの種類がありますが、最も一般的な「裂孔原性網膜剥離」は、網膜に裂け目(網膜裂孔)ができることから始まります。その主な原因は、加齢による眼球内の変化です。

主な原因:後部硝子体剥離

眼球の中は、硝子体というゼリー状の組織で満たされています。若い頃はこの硝子体が網膜とぴったり接着していますが、年齢とともに少しずつサラサラの液体に変化し、縮んでいきます。そして、ある時点で網膜から剥がれる現象が起こります。これを「後部硝子体剥離」といいます。

これは誰にでも起こる自然な老化現象ですが、硝子体と網膜の癒着が強い部分があると、硝子体が縮む際に網膜を強く引っ張ってしまい、裂け目(網膜裂孔)を作ってしまうことがあります。その裂け目から、液化した硝子体が網膜の裏側に入り込むことで、網膜が剥がれてしまうのです。

網膜剥離のリスクが高い方

  • 強度の近視の方:近視が強い方は、眼球が前後に長(楕円形)になっています。そのため、網膜が常に引き伸ばされて薄く、弱い部分(網膜格子状変性)ができやすいため、裂孔が生じるリスクが高くなります。
  • 50歳以上の中高年の方:加齢による後部硝子体剥離が起こりやすくなる年代です。
  • 目を強くぶつけたことがある方(眼球打撲):ボクシングなどのスポーツや事故で目を強くぶつけると、その衝撃で網膜に裂け目ができることがあります。
  • アトピー性皮膚炎の方:目のかゆみで強くこすったり、叩いたりする(掻爬行動)ことで、網膜剥離を引き起こすことがあります。
  • 過去に白内障などの目の手術を受けたことがある方:手術の操作が、後部硝子体剥離を誘発することがあります。
  • 家族に網膜剥離になった方がいる方:遺伝的な要因も指摘されています。

当院での検査と診断

鶴見区今福鶴見の大阪鶴見まつやま眼科では、網膜剥離を疑う場合、以下のような検査を行って正確に診断します。

  1. 視力検査・眼圧検査:目の基本的な状態を確認します。
  2. 眼底検査:診断のために最も重要な検査です。目薬で瞳孔を大きく開き(散瞳)、医師が特殊なレンズを使って目の奥の網膜の状態を隅々まで直接観察します。網膜の裂け目の有無、剥離の範囲、黄斑の状態などを詳細に調べます。
    ※検査後4〜5時間は、光がまぶしく、ピントが合いにくくなるため、車やバイクの運転は危険です。公共交通機関でご来院ください。

網膜剥離の治療法

網膜剥離の治療は、進行度によって異なります。いずれの場合も、自然治癒することはなく、治療には手術が必要です。

1. 網膜裂孔のみで、まだ剥離していない場合

幸いにも網膜が剥がれる前に裂け目が見つかった場合は、剥離への進行を防ぐための予防的治療を行います。

  • レーザー光凝固術:裂け目の周りをレーザーで焼き固め、網膜が剥がれないように「のり付け」する治療です。外来で、痛みも少なく短時間で行えます。

2. 網膜剥離がすでに起こっている場合

一度剥がれてしまった網膜を元に戻すには、入院して手術を受ける必要があります。手術方法は、剥離の状態や年齢などによって選択されます。

  • 強膜バックリング手術:眼球の外側からシリコンのスポンジやバンドを縫い付け、眼球を内側にへこませることで、剥がれた網膜を元の位置に押し戻す手術です。比較的若い方の、単純な網膜剥離に適応されることが多い伝統的な術式です。
  • 硝子体手術:眼球に小さな穴を3か所開け、そこから細い器具を挿入して、網膜を引っ張る原因となっている硝子体を切除します。その後、眼内を特殊なガスやシリコンオイルに置き換え、その圧力で網膜を内側から押さえつけて元の位置に戻します。近年、技術や機械の進歩が著しく、多くの網膜剥離でこの術式が選択されています。手術後は、眼内に入れたガスの力で網膜をしっかり押さえるため、数日間〜1週間程度、うつ伏せなどの姿勢を保つ必要があります。

いずれの手術も、目的は「網膜を元の位置に戻して、失明を防ぐこと」です。手術が無事に成功しても、視力がどの程度回復するかは、剥離していた期間や、黄斑が剥がれていたかどうかによって大きく左右されます。

まとめ:症状に気づいたら、迷わず今すぐ眼科へ

網膜剥離について、その恐ろしさと、早期発見・早期治療の重要性をご理解いただけたでしょうか。

【この記事の最重要ポイント】

  • 飛蚊症の急な増加・悪化、光視症、視野欠損は網膜剥離の危険なサイン。
  • 網膜剥離は痛みがなく進行する。
  • 放置すれば失明の危険性が非常に高い、眼科の緊急疾患である。
  • 治療は時間との勝負。特に黄斑が剥がれる前に治療することが視力維持の鍵

もし、この記事で解説したような症状が少しでもあなたに当てはまるなら、「少し様子を見よう」「明日になったら治るかも」とは絶対に考えないでください。その数時間の遅れが、あなたの生涯の視力を左右する可能性があります。

私たちは、患者さんの大切な目を守るために、日々最新の知識と技術で診療にあたっています。どうぞ、ためらわずに、お近くの眼科専門医にご相談ください。そして、もし当院がお近くでしたら、鶴見区今福鶴見の大阪鶴見まつやま眼科にお早めにご来院ください。迅速な検査と診断、そして最善の治療をご提案いたします。

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