「お子さんの学校の視力検査で、毎年視力が落ちている」
「黒板の文字が見えにくいと言うようになった」
「このまま近視が進み続けたら、将来どうなるのだろう…」
お子さんの近視の進行に、大きな不安を感じていらっしゃる保護者の方は少なくありません。近視は、単にメガネやコンタクトレンズで矯正すれば終わり、という問題ではないのです。
近年、お子さんの近視の進行を抑制するための医学的治療が確立され、眼科領域で大きな注目を集めています。その中心となるのが「低濃度アトロピン点眼薬」による治療です。これは、近視の進行を効果的に緩やかにし、将来的な目の病気のリスクを軽減することを目的としています。
当院では、この低濃度アトロピン点眼治療の選択肢として、実績のある「マイオピン」に加え、新しい選択肢である「リジュセアミニ」の処方も行っております。
この記事では、大切なお子さんの目の未来を案じる保護者の皆様に向けて、眼科専門医の立場から以下の内容を詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
- なぜ、子供の近視進行を抑える必要があるのか?
- 近視進行抑制の鍵「低濃度アトロピン」の効果と安全性
- 「マイオピン」と「リジュセアミニ」それぞれの特長と違い
- どのようなお子さんが治療の対象になるのか
この記事を最後までお読みいただくことで、近視進行抑制治療への正しい知識が身につき、お子さんに合った最適な治療法を考えるための一歩となります。
なぜ、子供の近視進行を抑える必要があるのか?

子供の近視は、主に眼球の奥行き(眼軸長)が伸びてしまうことで、ピントが網膜の手前で合ってしまう状態です。そして、一度伸びてしまった眼軸長は元に戻りません。
問題なのは、単に「遠くが見えにくい」だけでなく、将来的な目の病気のリスクを高めることです。特に、眼球が通常より大きく伸びてしまう「強度近視」になると、網膜剥離や緑内障、近視性黄斑症といった、失明につながる可能性のある重篤な眼疾患を発症するリスクが、正視の人に比べて何倍にも跳ね上がります。
近視は子どものときほど速く進む可能性があります。早い段階からできるだけ近視が強くなるのを避けることで、将来の見え方を守り、目の病気になる可能性を低下させることが治療の目的です。
お子さんの目の健康な未来を守るために、成長期に急速に進行しやすい近視を、可能な限り緩やかにコントロールしてあげることが非常に重要なのです。
近視進行抑制の鍵「低濃度アトロピン点眼薬」

「低濃度アトロピン」は、近視の進行に関わる眼軸長の伸びを効果的に抑制することが、世界中の大規模な臨床研究によって証明されている有効成分です。
シンガポール国立眼科センターの研究をはじめ、数多くの研究で、低濃度アトロピンを点眼した子供は、点眼しなかった子供に比べて近視の進行を約50〜60%抑制できたと報告されています。
かつてのアトロピン治療は濃度が高く、瞳孔が開いてまぶしがる、手元にピントが合いにくいといった副作用が問題でした。しかし、現在主流の「低濃度」アトロピンは、これらの副作用をほとんど起こすことなく、安全に長期間治療を継続できるのが大きな特長です。
当院で処方する2つのアトロピン点眼薬
鶴見区今福鶴見の大阪鶴見まつやま眼科では、お子さんの目の状態やライフスタイルに合わせて最適な治療をご提案できるよう、2種類の低濃度アトロピン点眼薬をご用意しています。
マイオピンはアトロピン0.01%、リジュセアミニはアトロピン0.025%を配合させた点眼薬です。アトロピン0.01%は、オーストラリアと中国で「小児における近視の進行抑制」の適応で承認されています。リジュセアミニ0.025%は、日本において厚生労働省により承認されています。
1. マイオピン点眼

マイオピンは、低濃度アトロピン点眼薬として世界的に広く使用されており、豊富な実績とデータを持つ治療薬です。
- 2つの濃度から選択可能:当院では「0.01%」の濃度のマイオピンを取り扱っています。一般的には0.01%から治療を開始し、近視の進行が速いお子さんには、より抑制効果が高いとされる「0.025%」の濃度のリジュセアミニを使用するなど、進行度に応じた個別化治療が可能です。
- 使用方法:1日1回、就寝前に点眼するだけです。日中の活動に影響はありません。
2. リジュセアミニ点眼

2025年4月21日に、子どもの近視の進行を抑制する点眼「リジュセアミニ点眼薬0.025%」が発売されました。
リジュセアミニは、参天製薬がシンガポールの国立眼科・視覚研究所であるシンガポールアイリサーチインスティテュート(SERI)と共同開発した点眼薬です。有効成分としてアトロピン0.025%を含有する、新しい近視進行抑制治療薬です。その最大の特徴は、製剤の形態にあります。
- 衛生的で目に優しい「防腐剤フリー」:リジュセアミニは、1回使い切りの「ミニボトル」製剤です。そのため、一般的な点眼薬に含まれる防腐剤が一切使用されていません。長期間にわたって毎日点眼する必要がある治療だからこそ、防腐剤による角膜への負担やアレルギーのリスクがないことは、お子さんの目にとって非常に大きなメリットとなります。
- 常にフレッシュな状態で使用可能:毎回新しいボトルを開封するため、非常に衛生的です。
- 使用方法:マイオピン同様、1日1回、就寝前に点眼します。
どちらの治療薬を選べば良いか
マイオピン | リジュセアミニ | |
---|---|---|
有効成分濃度 | 低濃度アトロピン 0.01 % | 低濃度アトロピン 0.025 % |
製剤の特長 | 多用量ボトル | 1日1回使い切り |
どちらの薬剤も近視進行抑制に有効ですが、例えば「まずは最も低濃度から始めたい」という場合はマイオピン0.01%、「アレルギー体質などで、防腐剤の影響が気になる」という場合はリジュセアミニ、といった選択が考えられます。最終的には、医師がお子さんの目の状態を正確に診断し、保護者の方と相談の上で最適な治療法を決定します。
マイオピン・リジュセア点眼の費用
マイオピン、リジュセアミニによる近視進行抑制治療は、健康保険適応外の自由診療となります。健康保険や医療費助成制度は適応されません。
マイオピン | リジュセアミニ | |
---|---|---|
価格 | 1箱1本(1か月) 3,600 円 | 1箱30本(1か月) 4,380 円 |
治療の対象と注意点
- 対象:主に4〜18歳で、中等度以下の近視のお子さん。
- 目的:この治療は、あくまで近視の進行を「抑制」するものであり、視力を回復させたり、近視を治したりするものではありません。
マイオピン・リジュセア点眼の副作用
問題となる副作用はほとんどないことがわかっています。低濃度アトロピンの副作用は、アトロピンの散瞳効果と調節麻痺効果によるしまぶしさ(羞明)と手元のぼやけがありますので、必ず就寝前に点眼するようにしてください。しかし、濃度が低いため程度は軽く、長時間続かないため、寝る前に使用すれば日中への影響は少ないことがわかっています。
リジュセアミニ点眼の国内治験の結果では、9.0%(11/122 例)の子が羞明を訴えました。また、一部の子にアレルギー性結膜炎によるかゆみがでることがわかっています。点眼後、まぶしく見えたり、一時的に目がかすんだりすることがあります。
まとめ:お子さんの目の未来のために、今できる最善の選択を
子供の近視は、もはや「ただ目が悪いだけ」の問題ではありません。将来の目の健康を左右する、早期からの介入が望まれる状態です。
【この記事のポイント】
- 子供の近視進行は、将来の重篤な目の病気のリスクを高める。
- 低濃度アトロピン点眼は、近視の進行を効果的に抑制できる、科学的根拠のある治療法。
- 当院では、濃度が選べる「マイオピン」と、防腐剤フリーで目に優しい「リジュセアミニ」の2種類を処方可能。
- どちらの治療も自由診療であり、眼科専門医による定期的な検査と経過観察が不可欠。
「うちの子の近視は、治療の対象になるのだろうか?」「どちらの薬が合っているのだろう?」そうした疑問や不安をお持ちでしたら、ぜひ一度当院にご相談ください。大切なお子さんの目の状態を精密に検査し、ご家庭の方針も伺いながら、一人ひとりに合った最適な治療プランをご提案いたします。
マイオピン・リジュセア点眼 よくあるご質問(Q&A)
マイオピンおよびリジュセアは、お子さんの近視の進行を抑制する効果が期待できる、新しい点眼薬です。当院でも、お子さんの将来の眼の健康を守るための有効な選択肢の一つとして、多くの患者さんに処方しています。
ここでは、この治療について親御様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
マイオピン・リジュセア点眼には、どのような効果がありますか?
この点眼薬は、近視の進行を抑制すること、つまり「近視が進むスピードを緩やかにすること」を目的とした治療薬です。有効成分である「低濃度アトロピン」が、近視の主な原因である眼の長さ(眼軸長)が伸びすぎるのを抑える働きがあると考えられています。
ここで非常に重要なのは、この点眼薬は「すでにある近視を治したり、視力を回復させたりするものではない」という点です。あくまで、これ以上強い近視に進ませないようにするための「進行予防」の治療となります。シンガポールで行われた大規模な臨床研究では、低濃度アトロピン点眼によって近視の進行を平均で約50~60%抑制できたという良好な結果が報告されており、その効果が世界的に注目されています。
副作用はありませんか?子どもが長期間使っても安全ですか?
親御様が最もご心配される点かと思いますが、マイオピン・リジュセアは、安全面に配慮して非常に低い濃度(0.01%や0.025%)に調整されたアトロピンを使用しているため、副作用は極めて少ないのが特徴です。
本来、高濃度のアトロピンには、瞳孔を開く作用による「まぶしさ」や、ピント調節機能が低下することによる「近くの見えにくさ」といった副作用があります。しかし、この点眼薬は濃度が非常に低いため、そうした副作用が起こる頻度は高くなく、日常生活に支障が出ることは少ないです。世界中で長年の使用実績があり、お子さんが長期間にわたって安全に使用できる治療法として確立されていますので、ご安心ください。もちろん、治療中は定期的に検診を行い、眼の状態をしっかり確認しながら進めていきます。
何歳から始められて、いつまで治療を続ける必要がありますか?
治療を開始するのに最適な年齢は、一般的に近視が進行しやすい4~18歳頃と言われています。ただし、お子さん一人ひとりの近視の度数や進行の速さによって適切な開始時期は異なりますので、まずは一度検査を受けていただき、医師と相談することが大切です。
また、この治療は、効果を維持するために長期間継続することが基本となります。眼の成長が止まり、近視の進行が自然に緩やかになる高校卒業頃(18歳くらい)まで続けるのが一つの目安です。急に点眼をやめてしまうと、それまで抑えられていた近視の進行が急に進む「リバウンド」が起こる可能性も指摘されています。治療の終了時期については、お子さんの眼の状態を見ながら、医師が慎重に判断します。
費用はどのくらいかかりますか?保険は適用されますか?
マイオピン・リジュセアによる近視進行抑制治療は、健康保険が適用されない「自由診療」となります。そのため、検査料や薬剤費は全額自己負担となります。
費用はクリニックによって異なります。お、自由診療ではありますが、この治療にかかる費用は確定申告の際に「医療費控除」の対象となります。詳しくはスタッフまでお気軽にお尋ねください。
メガネやオルソケラトロジーと併用できますか?視力は良くなりますか?
まずご理解いただきたいのは、この点眼治療は、あくまで近視の「進行を抑制する」ものであり、視力を良くしたり、メガネが不要になったりするものではない、という点です。日常生活でクリアな視界を得るためには、これまで通り、お子さんに合った度数のメガネやコンタクトレンズの装用が必要です。
その上で、他の近視矯正・治療法との併用は非常に有効です。日中はメガネをかけながら、夜にこの点眼を行うこともできます。また、夜間に特殊なレンズを着けて視力を矯正する「オルソケラトロジー」とマイオピン点眼を併用することで、より高い近視進行抑制効果が期待できるという報告もあり、当院でも積極的に行っています。それぞれの治療の長所を組み合わせ、お子さんに最適なプランをご提案します。